前回に続き「刺繍と人形」展を取り上げます。今日は「江戸絽ざし」です。
前回の記事はこちら↓からご連絡ください。
1.江戸絽ざし
絽ざしは奈良時代から続く日本の伝統的手工芸です。
絽の織り目のすきまを利用して、縦方向に絽ざし糸で刺し、布地全体を埋めます。
「江戸絽ざし」は、東京都が伝統工芸品として認定したときにつけられた名前だそうです。
①絽ざしの特徴
絽ざしの特徴を展示パネルを参考にまとめてみました
- 絽目のある特殊な専用生地に刺す(日本刺繍はどんな生地にでも刺せる)
- 絽布の穴の縦のラインに沿って巻くように刺す
- 公家の趣味として受け継がれた(日本刺繍は職人の間で技術が磨かれた)
- 一見すると織物のよう
- ステッチはシンプルだが奥深く重厚感がある
△絽ざしをしている様子(会場入口に設置されている紹介映像より)
②絽ざしの材料と道具
会場には絽ざしの材料と道具が展示されていました。
専用の糸には適度に縒(よ)りがかかっています
2.絽ざし作家 渡辺靖子さん
①プロフィール
1937(昭和12)年生まれ。
40歳から日本刺繍を学んでいましたが、69歳の時絽ざしに巡り合い、生地全面を刺繍で表現する圧倒的な存在感に惚れ込んで絽ざしの先生に弟子入り。
10数年前に江戸川区に転居してからは、えどがわ伝統工芸産学公プロジェクトに参加するなど、江戸絽ざし普及のため精力的に活動しています。
(展示パネルからの抜粋引用)
②作品
3.亀甲間道文様の帯
今回の展示作品の中に、「亀甲間道(きっこうかんどう)文様の帯」というものがありました。私はそれに注目しました。私が持っている帯とよく似ていたからです。
①渡辺靖子さんの作品
正六角形の幾何学模様は亀の甲羅に似ているので「亀甲」と呼び吉祥文(めでたいモチーフを描いた文様)としています。
間道は縞模様のことで、特色のある織物をさすことが多いです。
粋な縞柄と、格調高い金糸亀甲柄の組み合わせがとても面白い作品です。
②私が愛用している帯
私の帯はこれです。
趣味で絽ざしをやっていた知人(故人)から母が譲り受け、私が引き継いでいます。
作り帯に仕立てられていました。
こちらは間道(縞)だけの部分はなく、すべてに亀甲文様が施されています。使われている糸の色も少し違うようです。
この帯を作った大正生まれの女性は、私のきものやバッグも制作してくれました。
女性はずいぶん前に亡くなりましたが、絽ざしの作品は今も新品のときと同じように輝き続けています。
布全体を埋め尽くす絽刺し糸の丈夫さと、ひと刺しひと刺しに込められた作者の思いがそうさせているのでしょうか……。
4.絽ざしの帯を締める
渡辺さんの作品と似た絽ざしの帯を久しぶりに着用してみました。
①白の綿薩摩に合わせる
綿薩摩(めんさつま)のきものは木綿ですが、手触りは絹のようになめらかです。
また、文様も松に遠山霞で格調があるので、絽ざしの帯でも不釣り合いではないように思いました。
(綿薩摩は以下の2記事で取り上げています)
ブルーグレーの亀甲絣が入っているため、全体はグレーがかっています。
後ろは特に帯の主張が強く感じられます。
②絽ざしの帯+絽ざしの帯留め
帯留めはカフェ横のショップで購入した絽ざしのブローチです。
ここで購入しました。
富士山のブローチです。
ブローチ裏側
富士山の鮮やかな色に合わせて、帯揚げや襦袢も青にしてみました。(帯揚げは襦袢を作ったときの余り布なので同じ生地です)
また着物の柄も山なので、薄い色の遠山が装いの中心に位置する富士山を引き立てている感じです。
帯の<亀甲文>ときものの<亀甲絣>、この取り合わせも自己満足ですが、ポイントです。
この装いで、着物好きの友人ともう一度展示会に行きました。
お揃いの帯を見ながら……。
③友人にも発見が
制作途中のこの絽ざしを見た友人が、お祖母様の遺品の中に刺しかけの布があったことを思い出しました。
「何の刺繍だか分からずにずっと気になっていたのだけれど、絽ざしだったのね!」
と、嬉しそうでした。
後日、その写真を送ってくれました。
図柄は水辺の杜若(かきつばた)と橋。花と葉の細かい色分けが美しいですね。未完成なのが残念ですが、数十年経っても人を喜ばせるパワーを秘めた絽ざしです。
5.絽ざしブローチを帯留めにする方法
以前にもご紹介していますが、今回も以下の方法でブローチを帯留めにしました。(詳細は以下の記事を参照下さい。)
三分紐にゴムを通す
巻き付けていく
ブローチのピンの長さに合わせて2箇所にゴムを巻く
ピンを通す
裏からみたところ
出来上がり
2回にわたって「刺繍と人形」展をご紹介しましたが、女性工芸士たちの緻密で優しく、また迫力ある作品にはとても勇気付けられました。
作品を間近にゆっくりと鑑賞できるようにしつらえ、分かりやすい解説とともに展示した「しのざき文化プラザ」の担当の方々にも感謝したいと思います。