1月2日に「草乃しずか展 ~煌く絹糸の旋律~」に行きましたのでご紹介します。
1.日本刺繍作家 草乃しずか
①草乃しずかさんとは
日本刺繍の第一人者で、創作活動をしながら日本刺繍の普及に力を注いでいます。
「アトリエ草乃しずか」を主宰し、日本のみならず、海外でも展覧会やワークショップを開催しています。
△草乃しずかさん(2004年の展覧会図録『草乃しずか日本刺繍ー源氏物語そして命の輝き』講談社 より)
②草乃しずかさん 略年表
- 1944年(0歳) 石川県羽咋市に生まれる
- 1951年(7歳) 一家は東京・世田谷区へ
- 1964年(20歳) 結婚
- 1969年(25歳)フランス刺繍「森山多喜子教室」に参加
- 1971年(27歳)日本刺繍の丹羽正明氏に師事
- 1975年(31歳)美術書などで本格的な勉強を始める
- 1978年(34歳)NHK文化センターの日本刺繍の講師に
- 1988年(44歳)NHK「婦人百科」に出演
- 1996年(52歳)初めての個展「夢刺繍展」開催 「徹子の部屋」に出演
- 2000年(56歳)「桜浪漫展」を開催
- 2004年(60歳)「源氏物語そして命の輝き」展を開催
- 2011年(67歳)イギリスで展覧会を開催
- 2014年(70歳)「草乃しずかの世界 ひと針に祈りをこめて40年」展を開催
- 2015年(71歳)台湾・台北で展覧会を開催
- 2016年(72歳)香港で展覧会と講習会を開催
- 2017年(73歳)「草乃しずか展 煌く絹糸の旋律」を開催
(展覧会図録『草乃しずか 刺繍の魅力 煌く絹糸の旋律』「草乃しずか略年表」大和書房(2017年)より抜粋)
略年表にもあるように、草乃さんは結婚してから刺繍の道に入り、家庭を守りながらデザインの勉強や創作活動、日本刺繍の普及活動を続けてきました。
2.13年前の「源氏物語展」
私が草乃しずかさんのファンになったのは、2004年に開催された展示会を見てからです。それは「源氏物語そして命の輝き」というタイトルで、源氏物語を刺繍で表現するというものでした。
①源氏物語五十四帖
草乃しずかさんは、源氏物語を丁寧に読み込み、感じて、それぞれの帖をひとつの情景に描いて行きました。
物語の世界の哀しさや美しさを一針一針に託しながら絹糸で作り上げられた作品はどれも心に響き、とても感銘を受けました。
図録の中で、草乃さんはこう述べています。
五十歳を過ぎ、「どう年を重ねていこうか?」と悩んでいるとき、『寂聴源氏』に出会いました。源氏物語の中には、様々な女性の行き方が描かれています。「私はどのタイプ?」と自分に問い、すべて自分自身に含まれていることに気付きました。あるときは紫の上になり、また夕顔にもなる……。そんな私の源氏物語を、刺繍で表現することになったのです。
(2004年の展覧会図録『草乃しずか日本刺繍ー源氏物語そして命の輝き』講談社 より)
刺繍を通して自分の感性を磨き、自分を表現していく…草乃さんにとっての刺繍は、生きる楽しみ、生きる意味なのだと、展覧会を見て実感しました。
そしてこんなにも根気のいる仕事がなぜ出来るのかが少しわかり、日本の手仕事の深さと魅力もそこにあるのでは?と思ったのでした。
△五帖 若紫(2004年の展覧会図録『草乃しずか日本刺繍ー源氏物語そして命の輝き』講談社 より)
幼い若紫は光源氏から絵や歌の手ほどきを受けました。
草乃さんは「時の流れを四季の花に、手習いを絵草紙に写して」と解説しています。
△九帖 葵(2004年の展覧会図録『草乃しずか日本刺繍ー源氏物語そして命の輝き』講談社 より)
草乃さんの解説…「源氏の正妻・葵の上と源氏を熱愛する六条御息所の車争い。これをきっかけに、六条御息所の嫉妬は葵の上を死へと至らしめることになります。」
②昔着物に遊ぶ
草乃しずかさんは、昔のきものを刺繍によって蘇らせる達人でもあります。一針一針、亡き人とのお喋りを楽しむかのように着物に命を吹き込んでいるのでしょう。
△着物「父の思い出」(2004年の展覧会図録『草乃しずか日本刺繍ー源氏物語そして命の輝き』講談社 より)
草乃さんの解説…「父は魚釣りが好きでした。父が愛用していた能登上布。天国にいる父がいつでも釣りができるよう、お魚の刺繍を。」
△訪問着「祖母の晴着」(2004年の展覧会図録『草乃しずか日本刺繍ー源氏物語そして命の輝き』講談社 より)
草乃さんの解説…「箪笥に眠っていた祖母の衣装。菊や水仙に一針一針刺繍をのせながら、祖母とおしゃべりしているよう…。」
形見と触れ合う時、私も亡き人との会話を楽しんでいる気がします。刺繍は会話だけでなく、持ち主を失った着物にエネルギーを与えることができるのですね。
3.草乃しずか展 ~煌く絹糸の旋律~
今回の展覧会は松屋銀座で開催されています。(2017年12月27日~2018年1月15日)
少しだけご紹介します。
①心に着せる~百花繚乱~
草乃さんは、洋の東西を問わず、13人の歴史上に輝いた女性たちに心を馳せて振袖に刺繍を施しました。
エカテリーナ二世、マリー・アントワネット、楊貴妃、北条政子、出雲阿国……歴史の登場人物に過ぎなかった彼女たちは、草乃さんの思いが込められた振袖によって、新たな息吹で私たちの前に姿を現してくれています。
△マリー・アントワネットに寄せて
革命に散っていく様を表した流水地紋の上に、マリー・アントワネットが胸に秘め続けたウィーン・ハプスブルク家の高貴な白い薔薇を刺繍したということです。
この作品は2004年の展覧会でも見ることが出来ましたが、なんと今回は彼女のお母さんも一緒でした!
△マリア・テレジアに寄せて
草乃さんの解説(抜粋)…「オーストリア・ハプスブルク家の莫大な遺産を相続したマリア・テレジア。東洋の美術を愛し、シェーンブルン宮殿には、蒔絵や陶磁器の大コレクションがあります。」
漆の黒に宝尽くしの刺繍はとても印象的で力強さを感じました。
マリー・アントワネットはマリア・テレジアの末娘です。悲劇の王妃の振袖に寄り添うかのように並んだ母マリア・テレジアの豪華な振袖は、見るものに安心感を与えているようです。
(以上、写真と解説の抜粋は、展覧会図録『草乃しずか 刺繍の魅力 煌く絹糸の旋律』「草乃しずか略年表」大和書房(2017年)より)
②日本の文様
今回の展示で、私が最も感銘を受けたのは「日本の文様」の展示です。
明治期に作られた一冊の図案集をもとに、デザインを刺繍用にアレンジして作品にしたものです。
8種類の刺繍技法の組み合わせで表現されているという110点の作品は、大きいものではありませんが、とにかく綺麗で緻密、そして奥深く、着物好き女子には夢のあるコーナーでした。
△葵繋ぎ
△二崩しに蒲公英(たんぽぽ)
△四つ目に向かい蝶
(以上、写真は展覧会図録『草乃しずか 刺繍の魅力 煌く絹糸の旋律』「草乃しずか略年表」大和書房(2017年)より)
部屋のすみに展示された古い小さな図案集は、茶色くなった和紙に黒一色で描かれていました。
その本から草乃さんの刺繍よって新たに生を受けた日本の伝統模様の数々。色鮮やかな絹糸が音楽を奏でているように私は感じました。
文様の名称を知るだけでも楽しいので、時間を掛けてもう一度見たいと思いました。
△草乃しずか展~煌く絹糸の旋律 パンフレット
「草乃しずか展」は2018年1月15日まで開催されています。
公式WEBサイトはこちら
4.当日のきもの
当日はお正月ということで、吉祥文様の宝尽くしの小紋を着て行きました。
前述のマリア・テレジアの「宝尽くしの振袖」に合わせたわけではなく偶然なのですが、こちらも黒地の宝尽くし。母が大変気に入ってよく着ていたものです。
長くなりましたので、続きはまた…。