今日はきもののシミを仕立て直しによって隠すことができたお話です。
結果的には再び着られるようになったので成功例ですが、コストのかかる「仕立て直し」という方法を選びましたので、反省を伴うものとなりました。
1.二年ぶりの綿薩摩
先日、二年ぶりに白っぽい綿薩摩(めんさつま)を出してみました。
藍の綿薩摩はカジュアルで気楽に着られるので、出番が多いのですが、白は日常的でなくて、少し敬遠していたものです。
ただ、帯の選択肢が広くて楽しめるので、たまにすごく着たくなるのです。それが今回取り上げるきものです。
①綿薩摩とは
宮崎県都城市 東郷織物にて製作されている木綿の絣で、薩摩絣とも言います。
大島紬と同じ技法により作られる織物です。
手触りは従来の素朴な綿織物とまったく違い、ふんわり、しっとりしています。
木綿の中でも、一番細い糸を使って織られているため絹のような光沢や風合いがあると言われています。
②白っぽい綿薩摩に…
以前ご紹介した(2014.11.1)この白の綿薩摩は、山に霞、そして松という古典的な文様で、木綿と言えども格を漂わせるきものです。
その為、頻繁に着用しなかったことが、シミの発見を遅らせてしまったのかもしれません。
確認して収納したつもりでしたが、シミはこのように突然現れる? 場合もあります。しまう時は気付かぬ程度でも、年数が経つと色が濃くなるからです。
そのまま着てみました。シミは上前の結構目立つところにあります。
きもののシミは専門家に頼んでシミ抜きをしてもらうしかありません。
そしてシミ抜きで落ちない場合は…
きものによって状況は変わりますが、別の手段を考えなくてはならないようです。
2.シミ抜き以外の道
①染め直し
今より少し濃いめの色に染め替えることで、シミを隠すことができます。
ただし、ガード加工してあるものの染め直しは難しいようです。また、染め直しはなかなか希望通りにはならず、シミを隠すために予想以上の濃い色を掛けなくてはならないこともあります。
②仕立て直し
色無地や小紋のように模様を気にしなくてよい場合は、仕立て直しでシミを隠すことが可能です。シミの部分を、着たときに隠れる下側に入れ替えて仕立てるのです。
今回の綿薩摩はこの方法になりました。
③きもの以外にリメイク
染め直しや仕立直しをしてまで着るつもりはないけれど、「形を変えても残しておきたい」と思うものは、羽織やコート、帯やバッグなどにリメイクするのも楽しいです。形が変わることでぐっと身近なものになる場合もあります。
もちろん洋服への道もあります。
3.元通りになるまで
再び着られるようになるまでの過程をまとめてみました。
①シミ抜きを頼む
シミを発見し「もう無理かも…」という予感を持ちつつも、いつもお願いしている悉皆屋さんに頼みました。
②落ちないことが分かる
数日後連絡が入りました。シミ抜きを試してみて、きれいにはならないことが判明したそうです。
「このままお召しになりますか?それとも仕立直ししましょうか?」
という問いかけです。
綿薩摩は「木綿の普段着」と解釈すれば、このまま気にせず日常着として着続けることは可能です。
しかし、一反織り上げるのに熟練した職人さんでも半年掛かると言われる綿薩摩。
私は「お洒落着として大切に着ていきたい!」という気持ちが強かったため、すぐに仕立て直しをお願いしました。
③ほどいて洗い張り
きものはほどかれ、洗い張りされました。悉皆屋さんはかなり丁寧にシミ抜きをしてくれたようですが、効果は無かったようです。
しかし、他の部分はさっぱり、きれいになり、裾回しもきれいになりました。
④シミの部分は裏返して仕立て直し
織のきものは基本的に裏表がありません。そこで洗い張り後、シミが残った表側は裏返し、そして上前が下前になるように仕立て直しされました。
⑤出来上がり
約一ヶ月後、出来上がりました。
下前にうっすらとシミが見えます。下前は裏返して仕立てられています。
残ったシミの拡大
4.着てみる
スッキリした気分で着ることが出来ました。
上前は何事もなかったかのようにきれいです。
帯はインド更紗(木綿)を合わせてみました。
きものと帯は木綿同士で相性が良いですが、色や柄のせいか、普段着というよりもお洒落な雰囲気があるようです。
また、古い木綿の組み合わせなので、爽やかな帯締の色をポイントにしました。
母が遺した白の綿薩摩は、このようにして息を吹き返しました。