べっ甲の櫛を髪飾りとして使ってみました。
前櫛と言われるもので、古いですが精巧な蒔絵(まきえ)細工が施されています。
櫛は大きく見えても髪に挿すと見える部分が少ないので、中高年向けの落ち着いた髪飾りになりました。
挿すときの工夫も合わせて紹介します。
1.べっ甲の前櫛
①前櫛(まえぐし)とは
「飾り櫛」のことで、本来は髪を梳かすための櫛が装飾品となったものです。日本髪の前の部分に挿すので、便宜的に前櫛と呼んでいるのだと思います。
娘の結婚式用かつら合わせの時の写真で「前櫛」を見てみましょう。
「文金高島田」は普通の島田髷(しまだまげ)より高く結い上げられているのが特徴です。
前櫛と前挿(まえざ)し、中挿しを付けたところ
角隠しをする場合は……
前の部分は隠れても、大きな前櫛は目立っています。
私の昔の写真なのでボケていますが、赤い前櫛を挿しています。(文金高島田と比べて髷が低いのがわかります)
このように、一つにまとめた前髪と、後ろから持ってきて折り返して作る髷(まげ)の間に上から挿すのが飾りとしての前櫛の本来の使い方です。
②べっ甲に金蒔絵の前櫛
今回私が使ったのは、長さ9.5cmの半月型のべっ甲*の櫛です。
斑(ふ)*のある櫛に金蒔絵を施したものです。ぼかしのように入った黒い斑が蒔絵に陰影を与えていて、渋みもあります。
*べっ甲とは:
海亀の一種・タイマイという亀の甲羅(こうら)のことを言います。
*斑(ふ)とは:
甲羅の背中、「背甲」の斑点を斑(ふ)と呼びます。
斑のない腹甲やふち甲の飴色の甲羅だけで作られたものもあり、透明感のある茶がかった黄色の美しさが特徴で、希少性が高いものです。
③所有者は安政生まれ
この櫛の元の所有者は安政3年(1856)生まれで、昭和10年(1935)まで生きていた方です。
たくさんの櫛や笄(こうがい)を持っていたそうです。
曾孫にあたる方から譲り受けたこの櫛は、戦前の三越のタグ付きで、未使用だったと思われます。
「静舟」という銘があります。おそらくこちらが表ではないでしょうか。
菊の金蒔絵が施されています。
裏のふち部分の菊はつぼみで、少しおとなしい雰囲気です。
2.実際に付けてみる
①どこに挿すか
普段のアップの髪型では後ろ右側にかんざしをつけるのですが、櫛はどこに付けたら良いのでしょうか……。
落ちてしまったら大変なので、少し悩みました。
△見返り美人図 菱川師宣筆 (江戸時代17世紀)(東京国立博物館ウェブサイトより)
見返り美人図の女性は、頭の真上ではなく、こんな微妙な位置に挿しています。それでも櫛は上から挿せば安定するのだと思いますが、さすがにこの挿し方は現代ではおかしいです。
後ろにまとめた「おだんご」の真上でも、櫛の横幅がおだんごより長いので安定しません。
やはり後ろ側に斜めに挿してみることにしました…。
②意外に安定
普段用に簡単にまとめた髪に斜めに挿してみました。
右側は前髪を流してスプレーで固定しているため、櫛が通りやすい左に挿しました。
軽い櫛(12g)なので意外に安定しています。
櫛の歯が細く長いためか、髪に深く入っている感じがありました。
横幅がある割には大げさではなく、落ち着いた雰囲気の髪飾りになりました。
3.櫛が落ちない工夫
今回の櫛は落ちることなく安定していましたが、お辞儀をたくさんするとか、長い時間徒歩で移動……など動きが激しい場合は櫛が落ちることが考えられます。
そこで、こんな工夫をしてみました。
①和装の味方! ヘアゴム
百均などで売っている小さなヘアゴムを使ってみます。
帯留めに紐を通す時に使用してきた便利なミニゴムです。櫛を傷めることなく使えそうです。
帯留めの使い方はこちら
②使用方法
ヘアゴムとピンを用意します。今回は手持ちのゴムがこのカラーだったのでこれを使用します。
(黒や茶のほうが目立たなくて良いかもしれません)
櫛の端にゴムを巻き付けます。
Sサイズで3回巻けました。
3回巻いたゴムの一番外側だけにピンを差し込み奥まで入れます。(下の二巻のゴムがクッションになりピンが直接櫛に当たらないようになります)
櫛を髪に挿しながら、同時にピンを髪の中に入れ込み、髪に留めます。
こうするともし櫛が外れてもピンが髪に付いているので落ちることはないです。(ゴムとピンを使う方法は、若い頃かんざしを挿す時にも行っていましたが、当時は黒い布製ヘアゴムか輪ゴムだったので、かんざしへの装着がやりにくかったものでした)
この細いゴムなら櫛への負担が少ないので、片側でなく両端にピンをつけることもでき、さらに安心だと思います。