今日は「絽刺し」という刺繍で貝を表現した帯をご紹介します。
1.貝の文様・種類
貝の文様には色々な種類があります。
①貝合わせ文様
一番ポピュラーな貝文様。平安時代から貴族が行っていた貝合わせ遊びをモチーフにした文様です。他の貝とは合わせることができない二枚貝(蛤)を描いた文様で、夫婦円満の象徴とされます。そしてそれらの貝を入れる貝桶を描いた「貝桶文様」とともに吉祥文様として好まれてきました。
貝桶の中に貝が描かれています。(2015年5月31日の記事参照)
②貝尽くし文様
▲ 『きもの文様図鑑』平凡社2005年より引用
色々な貝を集めた図柄で、二枚貝だけではなく、様々な形の貝が描かれ、夏向きの柄です。
③法螺(ほら)貝の文様
「法螺文」ともいい、怨霊退散の意味がある縁起物です。中国の八宝思想に由来する文様で、宝尽くし文様の中に描かれることもあります。
▲「色絵宝尽壽文八角皿 鍋島 江戸時代」 『MOA美術館名品図録[総合篇]』より引用
④海松(みる)貝文様
▲ 『きもの文様図鑑』平凡社2005年より引用
ミルは松の葉に似た海藻のことです。色々な貝にミルを合わせた文様を海松貝文様といいます。春の柄で、海の’松’ということから茶道具では新年に使用されることもあるようです。
紛らわしいのですが、寿司ネタの「ミル貝」は、「ミルクイ貝」の別名です。貝殻から飛び出した水管に海松(ミル)が付着している様子が海松を食べているように見えたため「ミルクイ貝」→「ミル貝」となったようです。
2.帯をよく見てみる
海松貝文様です。一緒に置かれている桶は、貝桶ではなく、汐汲み桶です。
ちりめんの帯地に絽刺し(ろざし)刺繍*が縫い付けられているので、立体的でふっくらした印象です。
*絽刺し…専用の三本絽の絹織地を絹糸で刺し埋めてゆく日本刺繍。完成品をアップリケのように着物や帯に縫い付けます。(2014年11月29日の記事参照)
帯地のグレーがかった青色は海をイメージしているのでしょう。海藻らしき模様と桶の外側の紐は帯地に直接刺繍されています。そうすることで絽刺しのアップリケが自然に帯地と一体化して見えます。
3.着用例①
2月の上旬に、ある能楽師の追善公演がありました。
若い頃にお世話になったものの、弟子や関係者ではないので、紋付き無地などではなく普通の装いで行くことにしました。そしてこの貝の帯を選びました。
能楽堂にて
続く