今日は珍しい紙衣(かみこ)の帯をご紹介します。
アンティークの引き抜き帯で、紙衣(和紙)に刺繍が施されています。
1.紙衣の帯
①紙衣とは
紙子とも書きます。
厚い和紙を糊でつぎ、柿渋を塗って揉み和らげた衣類のことです。軽くて保温性に富んでいます。
江戸時代には紙が庶民の間でも普及し、紙衣も身近なものとして着用されていたようです。
柿渋が塗られていることで防水性があるため、防寒だけでなく旅用の合羽にも仕立てられていたようです。
△油引紙衣合羽(江戸時代)(『別冊太陽』和紙 構成・吉岡幸雄 (平凡社・1982年)より)
これは以前にもご紹介した刺繍のないカジュアルな紙衣の帯です。
母から譲られたもので、黒谷和紙で作られています。
バッグは白石和紙でできています。
この帯とバッグに関してはこちらで取り上げています。
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②銀の地色に菊の刺繍
今回取り上げるものは日常着としての紙衣ではなく、華麗な刺繍が施されたよそ行きの紙衣帯です。
当ブログで時々ご紹介する↓ 70代の知人のお祖母様(明治20年代生れ)が着用なさっていた帯です。
銀の揉み紙で、灰色のぼかし模様がある和紙に絹糸で菊の刺繍が施されています。
紙に刺繍をすることは現代でもグリーティングカードなどで行われていますが、紙衣への刺繍は今では珍しいものだと思います。
この帯がいつ頃のものかは不明ですが、大正~昭和初期でも珍しい帯だったのかもしれません。
③和紙でも「引き抜き帯」
この帯は和紙でありながら、ぎゅっと結んでお太鼓を作る「引き抜き帯」の柄付けになっています。
写真のようにタレの刺繍は裏側にあり、タレとお太鼓の柄はとても近い位置にあります。普通の結び方をしてしまうと後ろは柄が出ず、無地の帯になってしまいます。
現代のように仮紐を使って帯をたたむように着用できるのであれば和紙の生地に負担はかからないのですが、古い紙衣の帯をぎゅっと結んでもよいのか、少し心配です。
引き抜き帯については、繰り返しの説明になりますが、以前こちらで取り上げています。
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2.紫根絞りの訪問着に合わせる
戦前に作られた帯ですので、着物もレトロな色合いの紫根(しこん)染めにしました。
①紅葉に源氏香
紅葉に源氏香がデザインされた紫根染南部絞り*の訪問着です。
*紫根染南部絞り(しこんぞめ なんぶしぼり)……岩手県盛岡市で作られるむらさき草の根からとった染料で作られる草木染めのしぼりのこと。
この着物は盛岡出身の明治生まれの方が所有し、昭和50年頃形見として母が譲り受けたもので、草紫堂初代藤田謙氏(1890~1980)の作品です。(今はこのデザインはないようです)
後ろの背中から袖にかけてと、上前衽(おくみ)裏に見える絞りの紅葉が大好きです。
この着物についてはこちらで取り上げています。
②着物は季節先取りというけれど
着用したのは11月30日。昔の感覚では初冬にもみじの着物は遅いのかもしれません。けれどもこの日の東京は17℃で、イチョウやもみじの色付きも半ばといったところでした。
近年東京のもみじは12月の第二週あたりが見頃になっているので、着物は季節先取りと言いながらもこの日は着ていてあまり違和感がなく、むしろこれからの紅葉の盛りを待つ気分でした。
また、白の絞りを青楓に見立てて春の着用も可能かもしれませんが、この着物の風情は秋に取っておきたいので、私は今のところ秋限定で着用しています。
3.アンティークの取り合わせ
①ちょっと古い着付け
今回は前の帯の重なりが少しズレてしまいました。
手結びではありがちなのと、紙衣帯をぎゅっと締めるのをためらったせいかもしれませんが、昭和の時代はもっと斜めに重なる締め方を目にしたものです。
そして、これはたまたまですが、タレが斜めになってしまいました。(この斜めのタレ、昔の着物には合っているようで個人的には好きです)
実は「タレをまっすぐに控えめに出す」ようになったのは多分「着付け教室」が普及してからのこと。
昔は気分で端を上げたりたっぷり出したりして、真四角のお太鼓はむしろ敬遠されていた気がします。
手結びの引き抜き帯は前で結べば難しくはないのですが、現代の理想とされる平らで真四角なお太鼓は作りにくいように感じます。
私は子供の頃から見慣れてきたせいか、昔風のふっくらと少し斜めになったお太鼓が好みではあります。
お太鼓の形についてはこちらでも……
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お太鼓の形を考える ~正しいお太鼓の形って何?~
今日は、お太鼓の形について考えます。理想的な形はあるのか、またはどのように形を作ればよいのでしょうか……。わたしのやり方などでご紹介したいと思います。
前掲の記事でも取り上げていますが、引き抜き帯の時代、お太鼓はこんな感じでした。
昭和9年頃の東京の写真です(筆者所蔵)。
寺の落慶法要の様子を撮影したもので、さまざまなお太鼓が並んでいて興味深いです。
女性はみな髪をきちんと結い上げ、揃いの紋付きを着ているので正装だと思いますが、そのわりにお太鼓はゆったりとしています。
②紅葉の着物とクリスマスマーケット
この日紅葉の色付きはまだ三分ほどでしたが
根付(有田焼)一つでも気分はアップします。
12月を前に、ランチを楽しんだ麻布台ヒルズではクリスマスマーケットが始まっていました。
銀色の帯がクリスマスのオーナメントボールにマッチしているような気もします。
東京の街は紅葉と銀杏のライトアップにクリスマスのイルミネーションが重なる、華やかな季節になっていました。