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紙衣(かみこ)を考える その1

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今日は紙衣を取り上げます。

1.紙衣とは

①厚い和紙から

紙子とも書きます。

厚い和紙を糊でつぎ、柿渋を塗って揉み和らげたきもののことです。軽くて保温性に富んでいます。

②何に使われたか

・僧衣
平安時代は蚕を殺して作る絹より、植物の繊維から作る紙の衣が重用されたそうです。現代でも奈良・東大寺の二月堂の修二会(しゅにえ)の際に着用されています。

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△修二会の準備をする紙衣を着た僧侶(『別冊太陽』和紙 構成・吉岡幸雄 (平凡社・1982年)より)

 

・戦国時代の胴服や陣羽織
よく揉み込んだ紙は柔らかな鹿皮のような風合いになるようです。

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△陣羽織(上杉謙信所用の柿渋染紙衣陣羽織(桃山時代・重文)前掲書より)

・下着

・防寒着

・夜着(よぎ)
寝るときに上に掛ける夜具。<かいまき>のこと。

 

2.昔は身近な紙衣

①江戸時代

江戸時代には紙が庶民の間でも普及し、紙衣も身近なものとして着用されていたようです。

柿渋が塗られていることで防水性があるため、防寒だけでなく旅用の合羽にも仕立てられていたようです。

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△油引紙衣合羽(江戸時代)

元禄2年(1689年)、芭蕉が奥の細道の旅を始めた直後、江戸から九里ほどの草加にたどり着いた時の記述にも<紙子>が登場します。

「…痩骨(そうこつ)の肩にかかれる物先(まづ)くるしむ。只身すがらにと出立侍(いでたちはべる)を、紙子一衣(かみこいちえ)は、夜の防ぎ、ゆかた・雨具・墨・筆のたぐい、あるはさりがたき餞(はなむけ)などしたるは、さすがに打捨てがたくて、路次の煩(ろじのわづらい)となれるこそわりなけれ」

[現代語訳]

「痩せて骨ばった肩にかかっている荷物で、何よりもまず難儀した。ほんの身体一つでと思って、支度をして出たのだが、紙子一枚は夜の寒さを防ぐ用意に、また浴衣・雨具・墨・筆の類、あるいはことわりにくい餞別などをしてくれたのは、いくらなんでもすてるわけにもいかないので、それが道中のなやみとなったのは、ほんとにやむをえないことである。」

『奥の細道』麻生磯次訳注 旺文社文庫 1970年 より

芭蕉の必要最低限の旅支度の中に紙子が入っていたことからも、当時の人にとって欠かせないものだったことがわかります。

②昭和時代も

昭和初期生まれの母も、幼い頃紙衣の下着(ベストのようなもの?)を持っていたらしく、「とても暖かかったのよ」とよく話していました。

子供の時聞かされた「カミコ」という言葉の響きは、<紙を着る>という不思議さも重なって、印象的なものでした。

③歌舞伎では

近松門左衛門作の『夕霧阿波鳴門(ゆうぎりあわのなると)』の一場面を元に作られた『廓文章(くるわぶんしょう)』「吉田屋奥座敷の場」において、親から勘当を受けた伊左衛門(いざえもん)が、みすぼらしい紙衣姿で、恋人夕霧(ゆうぎり)のいる吉田屋を訪ねるシーンが有名です。

ただし、実際の衣装は紙衣ではなく、絹の縮緬だそうです。

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△『廓文章』の伊左衛門 十四世片岡仁左衛門(『演劇界』演劇出版社 昭和48年10月号臨時増刊より)

紙衣の衣装は、「紙の博物館」の常設展示で見ることができます。

http://www.papermuseum.jp/

 


△紙衣の舞台衣装(1987年)
「昭和62年 第6回近松座定期公演『傾城仏の原』用に特別に仕立てられ、中村扇雀が着用したもの。原紙は白石和紙(遠藤忠雄抄造)」(展示の説明より)

 

3.紙衣製作のポイント

①楮(こうぞ)から和紙へ

紙衣を製作するには、まず丈夫な紙を作る必要があります。

[和紙の製造工程]

  1. 楮の木を切り、蒸して皮を剥ぎ取り乾燥させます。
  2. 乾燥させたものから表皮を取り、白い皮の部分を水につけて柔らかくします。
  3. 大釜で煮ます。
  4. 煮た楮を水洗いして小さなゴミを取ります。
  5. たたいて繊維をほぐし、ビーターという機械でほぐして、どろどろの綿状(紙素)にします。
  6. 水に紙素とトロロアオイの粘液を入れて、紙漉きをします。
  7. 漉き重ねたものをプレスして水を絞ります。
  8. 乾燥させます。

和紙というと紙漉きの場面をイメージしますが、その作業に至るまでの工程が大変で、特に冷たい水の中で楮をさらしながら一つ一つ丁寧にゴミを取る「見出し」という作業は根気と労力が必要とされます。

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△楮畑

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△紙漉き

出典:『黒谷和紙 工芸の里』パンフレット、『別冊太陽』和紙 構成・吉岡幸雄 (平凡社・1982年)

紙衣にするための和紙は、漉くときに縦横十文字に揺すって繊維をよく絡ませ、厚く丈夫な紙に仕上げます。

②和紙を揉む

仕上がった紙にこんにゃく糊を塗って揉み、しわをつけます。この作業によって紙は丈夫でしなやかなものになるのです。

揉む時は絞り棒に巻きつけて押し縮めて柔らかくします。

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△紙を揉む様子(『別冊太陽』和紙 構成・吉岡幸雄 (平凡社・1982年)より)

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△自分が着る紙衣を木の棒を使って揉み込む東大寺の僧侶(前掲書より)

 

4.黒谷和紙の紙衣の帯

①黒谷和紙とは

京都府綾部市の北部、舞鶴市との境に位置する黒谷町に伝わる丈夫な和紙です。

800年以上前、戦いに敗れた平家の一団が人の少ない山間に身を隠し、回りに自生していた楮と川の水を使って紙作りを始めたそうです。

昔ながらの製法を守る全国でも数少ない和紙の生産地として知られています。

黒谷和紙では14、15匁(もんめ)*の生漉き(国産楮100%使用)の厚い和紙からもみ紙を作り、手提げ袋や衣裳敷き、座布団などを作っています。(黒谷和紙協同組合の中村さんに電話で話を聞きました)

*和紙の厚みは、匁という重さで表し、一匁は約3.75グラムです。
(障子紙は3~5匁)

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△紙衣原料のもみ紙

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△紙衣ざぶとん(絞り)

以上は「黒谷の和紙 製品見本帳」からの引用です。ざふとんについては、海の京都市場から購入可能です。

 

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私が愛用している黒谷和紙の衣裳敷や紙財布です。「黒谷手漉き和紙 高級手もみ 衣装敷紙」より購入出来ます。

②絞りの帯

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昭和後期に母が購入した黒谷和紙の紙衣帯です。

 

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布のようにも見えますが、

 

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もみ紙を糊で貼って作られています。

 

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糊付けされた部分(着用すると見えない位置です)

 

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糸が使われているのは、お太鼓と胴の境目部分だけです。

 

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絞りのアップ

 

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重さは446gと軽いです。

紙衣の帯の着用例は次回ご紹介します。

[黒谷和紙の映像]

黒谷和紙の製造工程や歴史、黒谷の風景を収めた映像が、2017年「第15回全国地域映像コンクール」でグランプリを受賞したそうです。

NPO法人地域文化アーカイブス 「第15回全国地域映像コンクール受賞作品」で見ることができます。(34分15秒)

 

つづく



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