模様や刺繍を気に入って購入したアンティークでも、身につけようとすると華やかすぎて気が引けることがありませんか?
先日、金糸使いの派手な帯をカジュアルに着用してみましたのでご紹介します。
1.絽綴れに刺繍の帯
①若い女性用の帯
絽綴れに可愛い刺繍が施された帯です。
戦前のものとは思えないほど金糸が光っていて、刺繍糸も色鮮やかです。
刺繍の花の大きさからも10代~20代前半の若い女性用の帯だと思われます。
②七寸の帯幅
帯幅は七寸(約27cm)で、普通の帯幅(八寸・約30cm)よりやや狭いです。
右の帯は八寸の袋帯です。
単体ではわかりませんが、重ねると幅の違いがわかります。
七寸の帯は昔はよく使われたようで、年配の女性や小柄な女性向きだったようです。小柄な人ならお太鼓結びにしてもちょうど良く、むしろ着やすいのだと思います。
③持ち主
帯の持ち主は知人のお母様で大正10年生まれ。
大切に保管され、その娘である彼女(70代)も若い頃お茶会で着用したとのことです。その時は「立て矢結び」*に結んでもらったそうです。
*立て矢結び(たてやむすび)…「振袖用の帯結びの一種。左上から右下へ斜めに横切る羽をたて矢に見立てたもの。」(Wikipediaより)
△立て矢結び(sthderivative work: Pitke, CC BY 2.0, via ウィキメディコモンズ)
斜めに傾いた大きな蝶結びとも言える立て矢結びですが、格式が高く華やかな雰囲気になります。帯地もよく見えるので、豪華な刺繍のこの帯にはぴったりの締め方だったのでしょう。
現在では花嫁の振袖の時に結ぶことが多いようですが、昔は七五三などの少女にも使われたポピュラーな結び方だったと思います。
さて、今回の帯は刺繍に厚みがあり華やかなものですが、地は絽綴れなので夏帯です。合わせる着物も単衣か薄物になります。
普通の取り合わせでよそ行きに仕上げてしまうと、豪華さと可愛らしさが目立ちすぎて中高年では着用が難しそうです。
そこで地味な色のカジュアル夏着物……夏塩沢を思いつきました。
2.夏塩沢(なつしおざわ)
①夏塩沢とは
新潟県南魚沼市で作られた夏用の絹織物です。
魚沼市といえば麻織物の越後上布(えちごじょうふ)が有名ですが、その伝統技術を活かして明治期に誕生したのが夏塩沢です。
たて糸、よこ糸共に強い撚(よ)りを掛けた強撚糸(きょうねんし)を使用して手作業で蚊絣・亀甲絣の模様を織り出します。
絹なので麻のようなつっぱり感はありませんが、撚りをかけた糸によってサラリとした肌触りになるのが特徴です。
②蚊絣(かがすり)
私が選んだ着物は細かい蚊絣(かがすり)の夏塩沢です。
蚊絣は、経(たて)糸と緯(よこ)糸を十字に織り出す「十字絣」の中で、さらに細かく密に織り出したものをいいます。
絣で花柄などの模様をあらわすのではなく、小さな十字型の絣が等間隔で規則正しく並んでいるので、蚊絣のきものは遠目には無地のように見えることも。
昔は書生さん(学生)が着ていた着物にこのようなタテヨコの単純な絣が使われていたため、「書生絣」とも言われます。
男性用のイメージが強いこの着物はカジュアルでシャープな雰囲気があるようです。
以前は盛夏用の粗紗(あらしゃ)の帯をあわせたり……
浴衣用半幅帯を合わせて着ていました。
③対照的な組み合わせで
+
華やかな金糸使いの若向きの帯+男性的な模様でカジュアルな絣の着物という対象的な組み合わせを試すことにしました。
3.銀座結びで
①着用してみた
正面はあまり派手さを感じません。
浴衣なら年配でも柄の大きな半幅帯を締めるので浴衣の装いのつもりです。
後ろは金糸が輝いていて華やかですが、「銀座結び」にしたことで、四角い「お太鼓結び」よりも柔らかい印象になりました。
銀座結びは昔風の粋な雰囲気になるのが特徴です。
②小物
帯揚げは目立たないものにしました。
帯締めは帯の刺繍の色に合わせずに、シャープなものを選びました。可愛らしさを消してカジュアルな絣に合わせたつもりです。
履物はやはり下駄が合います。
③結び方
銀座結びは後ろでもできますが、慣れていないのと、人目を引く結び方だと思うので、私は前結びで仕上げています。
結び方はこちらで取り上げています。
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銀座結びは帯枕を使わないので背中が涼しく、夏の装いにもぴったりです。