今日は、お太鼓の形について考えます。
理想的な形はあるのか、またはどのように形を作ればよいのでしょうか……。
わたしのやり方などでご紹介したいと思います。
1.お太鼓の山
先日読者の方から、「何度練習してもお太鼓の山が綺麗に左右対称になりません。アドバイスをお願いします。」というメッセージを頂きました。
この問題の解決策を私なりに考えてみました。
①帯枕を変えてみる
丸みのある従来の帯枕は、柔らかい曲線の山を作ることができますが、背中の中心に当たらないとお太鼓が歪んでしまうことがあります。
そこで、初心者の方には真っ直ぐで長い帯枕のほうが使いやすいと思います。
「空芯才デラックス」という帯枕です。
通常のものより5-6cm長いので、お太鼓の端まで枕を当てられます。
背中の中心に枕を当てることに気を使わずに着用できるので、お太鼓を作りやすいと思います。
「帯枕と枕ひも」こちらで紹介しました。
②目で確認する
友人たちに聞いたところ、多くの人は名古屋帯のお太鼓は背中側で作って背負うとのことでした。
質問者さんもそのような着用法とのことでしたので、私は、なるべく目でお太鼓の山を確認してから背負うことをおすすめします。
次に、段模様の名古屋帯を使って説明します。
2.お太鼓を作るときの工夫
①帯を巻く
帯を胴に巻き、手先を後ろにたらしたところです。帯が緩まないように仮紐で締めています。
そうすることで、ゆっくり作業ができます。
②お太鼓の山をつくる
体の横で山を作ります。
山が曲がっていないか目で確認しながら、どの柄を上のラインにするか決めて、帯枕をあてます。
③背中にのせる
手を持ち替えて背中にのせます。
背中にのせる動作は、慣れない場合は何回か練習するとよいと思います。
また、着付けのやり方はいろいろあるので、紐やクリップなどをやりやすい方法で活用してください。
段模様の帯や、お太鼓柄の帯の場合、このように慌てずゆっくりと確認しながら背中にのせると良いと思います。
④雰囲気を変えたいとき
<段模様の場合>
段模様の場合、山の位置をずらすと雰囲気が変わります。
<お太鼓柄の場合>
上の写真が本来の柄の出し方ですが、下の写真は帆船の上部がカットされ、青い色が強調されています。
④帯が短いとき
帯が短く、お太鼓の山を体の横で作れない場合は、鏡に写して確認します。
ただし、背負うときは鏡を見ると曲がってしまうので、まっすぐに前を見てください。
これ以降は、それぞれのやりやすい方法でお太鼓を完成させてください。
「お太鼓作り帯の着用のしかた」
<4.仮紐を使ったお太鼓の作り方>
こちらでは、仮紐を使った作り方を紹介しています。よかったら参考にしてください。
3.お太鼓に理想の形はあるのか?
現代では、ほとんどの人が薄くてピッタリ、真っ直ぐでシャープなお太鼓が格好良いと思っているようです。
洋装の人の中で、邪魔にならず、悪目立ちしないお太鼓が求められているのでしょうか……。
△和装用品カタログに掲載されていたお太鼓(『花の姿』春号 2020年1月株式会社ベルーナ発行)
これらは無駄のないコンパクトな形のお太鼓です。
①昭和時代の私の記憶
私が10~20代の頃、まわりの大人たちのお太鼓は現代のように薄くピッタリしてはいませんでした。
母もそうでしたが、帯を結んでお太鼓を作っていた人も多く、後ろは今より膨らんでいたと思います。
ですから私は、作り帯を着用するときは、少し気が引けていました。後ろがぺちゃんこで膨らみがないため、作り帯であることがすぐわかってしまうからです。
当時、薄いお太鼓をピッタリ付けるのは、仲居さんのように働く女性のユニフォームとしてとらえていた記憶があります。
また、母は私のお太鼓を作ってくれる時、
「若い人はお太鼓の山を丸くして、ふっくらさせたほうがいいわよ」
とか、
「後ろのタレの長さは短いと貧相に見え、長すぎるのは野暮ったいものよ」
と言っていました。
当時は帯だけでなく、衿の合わせ方、衿の抜き方、お太鼓の位置など、今よりさまざまで、個人差も大きかったと思います。
私は子供の頃から、自分が着るだけでなく、人それぞれの個性的な着方を観察して楽しんでいました。
②昭和後期の着付け本のお太鼓
昭和後期の着付けの本では、帯は結ばずお太鼓を作っていますが、現代のように真っ直ぐではありません。
カジュアルな場合は少し右を上げて、お太鼓に表情を付けています。(写真:主婦の友デラックスシリーズ『美しい着つけと帯結び』主婦の友社・昭和54年発行 より引用)
③昭和初期のお太鼓
昭和初期、戦前のお太鼓はさらに形が自由だったようです。
昭和9年頃の東京の写真です(筆者所蔵)。
寺の落慶法要の様子を撮影したもので、さまざまなお太鼓が並んでいて興味深いです。
女性はみな髪をきちんと結い上げ、揃いの紋付きを着ているので正装だと思いますが、そのわりにお太鼓はゆったりとしています。
着付け教室がなかった時代のお太鼓は、こんな感じだったのではないでしょうか?
次に、雑誌に登場する若い女性のお太鼓を見てみます。
△戦前の雑誌*より
豪華な帯を充分に見せるように、お太鼓は丸くふっくらと作られています。
このような装いは自分で着るのではなく、使用人が「奥様」や「お嬢様」の着付けをしているイメージがあります。
*婦人倶楽部新年号付録 『和服裁縫大全集』昭和12年 大日本雄辯会講談社 発行
④お太鼓の理想の形
私は、お太鼓に理想的な形はないと思います。
極端にぶよぶよとだらしない感じでなければ、ぽってりしていても、左右対称でなくてもよいはずです。
おそろいのランドセルを背負った子供のように皆が同じ形なのはかえっておかしいのではないでしょうか?
皆さんはどう思いますか?