今日は先日着用した色留袖をご紹介します。
1.色留袖と比翼
①色留袖とは
色留袖とは、地色が黒以外の留袖のことで胸には柄がなく、裾に模様があります。三つ紋、五つ紋が入っており比翼仕立てになっています。
五つ紋は黒留袖と同格になります。
②比翼仕立てとは
本来は留袖の下に白羽二重のきものを重ねて着ていましたが、最近は衿や裾など見える部分に別布を縫い付けて二枚着ているように見せる仕立てをします。これを比翼仕立てといいます。
③重ねる意味
昔は礼装には二枚重ね、花嫁は三枚重ねときものを重ねて着ていました。慶事が重ねてあるようにと願ったからと言われています。
△家に残る大正5年正月の写真
母親だけでなく赤ちゃんのきものも重なっています。
ところが今回ご紹介するきものは比翼をはずした状態でした。
2.葡萄唐草文様の色留袖
①三つ紋
②柄
*唐花文…中国から伝わる文様で唐風の花や蓮花、牡丹、理想の花などを合成してできた文様。
③比翼をはずした理由
この色留袖を母は披露宴などに着用していましたが、60歳頃、能の舞囃子を舞うために比翼を外しました。
仕舞用の袴を付けるのを好まなかった母は、帯付き(着流し)で舞うことが多かったのですが、この時は比翼をはずし華やかさを抑えた色留袖で、身軽に舞いたかったのだと思います。
△舞囃子を舞う母
④残った比翼
外した比翼です。又付けられるように綺麗にしまわれていました。
3.着用
比翼なしの色留袖、着るとこんな感じになりました。
△鈴木時代裂研究所の「鶏頭手金更紗(けいとうできんさらさ)」のバッグを持ちました
(2016年9月10日の記事参照)
そして出掛けたのは東京・千代田区の学士会館。
「木村孝先生を偲ぶ会」でした。
4.「木村孝先生を偲ぶ会」
①木村孝(きむら・たか)先生とは
木村孝さん(1920年~2016年)は京都出身の染織研究家・随筆家です。
きものと和の文化を愛し、多くの人々にその精神を伝えるために、和装に関する講演やテレビ出演、執筆活動を続けました。
△木村孝さん(出典:木村孝(2016)『衣(きぬ)の声~ きものの本流を見つめて~』ハースト婦人画報社/講談社より)
②偲ぶ会
木村孝さんは、77歳の時から毎年秋に「木村孝と『和の美』をはぐくむ会」を開催していました。そしてその会を100歳まで続けることを願っていらしたそうです。
会には毎年約200名のきものを愛する人々が集まりました。女性は華やかな和装。男性もきもので参加する人が多かったようです。
ところが今年10月、元気に96歳の誕生日を迎え、引き続き精力的に仕事をなさっていたところ、11月2日に急逝されました。
「木村孝と『和の美』をはぐくむ会」は「木村孝先生を偲ぶ会」となったのです。
③平常のきもの?
案内状に書かれた会のタイトルは
「木村孝と『和の美』をはぐくむ会」~孝先生への思いを皆様とともに~
です。
そして最後にこう書かれていました。
「なお当日は、美しい色合いのお召し物がお好きであった孝先生の会でありますので、平常のお召し物でご臨席賜りますようお願い申し上げます」
“平常のお召し物”とは、例年の会と同じように華やかな装いという意味だと思います。しかし偲ぶ会は11月20日。亡くなられてまだひと月も経っていません。
どんなきものにするべきか…私は少し悩みましたが、結局いつものように、自分が最初にイメージしたきものを着ることにしました。
それが葡萄唐草文様のきものと帯でした。
④参加者の様子
当日は300名近い方々が出席されました。
美しい晴れ着の方、色喪服の方、一つ紋付き色無地に袋帯の方などさまざまでした。木村孝さんと深い親交のあった方は色喪服や色無地だったように思われます。
私はそのような立場ではないので、無地は選ばず、ただ心からの敬意を表すつもりで三つ紋の色留袖にしました。
偲ぶ会は、献花や弔辞の時には深い哀しみに包まれましたが、在りし日のビデオを見たり思い出が語られるにつれて、いつしか参加者一人一人の木村孝さんへの思いが、きものへの憧れや情熱、希望や使命感、といったものに変わっていったように感じられました。
⑤葡萄唐草模様
当日は、かつて木村孝さんが出演したNHKテレビ「にっぽんの芸能・ナンノの着物ことはじめ」のビデオ上映がありました。
タイトルは「葡萄唐草文様」でした。
木村孝さんは葡萄唐草文様が好きだったそうです。
「奈良薬師寺の薬師如来台座の葡萄唐草文様が一番好き。古いというより現代的。ギリシャを通って来たことが感じられる」という内容のお話をされていました。
私はこの番組を見逃しており、木村孝さんが葡萄唐草文様をお好きだったことを知らなかったので、驚きと共に胸が熱くなりました。
(参考)葡萄唐草文様の例
△葡萄唐草文(織り帯)(出典:長崎巌 監修・弓岡勝美 編(2005)『きもの文様図鑑―明治・大正・昭和に見る』平凡社)
△葡萄唐草文(友禅のきもの)(出典:前掲書)