今日は黒地の帯を取り上げます。
最近は淡い色の着物に淡い色の帯を合わせることがふつうになったので、黒い帯は昔風と敬遠されるかもしれませんが、私は今でも大好きです。
1.憧れの黒繻子(くろじゅす)帯
黒地の帯といってもいろいろありますが、私が子供の頃から憧れていたのは歌舞伎や時代劇に出てくる黒繻子の帯です。
歌舞伎に登場する腰元(こしもと)達が、お揃いの紫の矢羽根の着物に黒繻子の帯を<立て矢結び>にしてずらりと並ぶ姿はとても美しく、「あんな格好がしてみたい!」と舞台を見るたびに思っていました。
(その後、志村けんの「バカ殿様」で女性アイドルが同じ矢羽根の着物姿で腰元に扮し、お笑いの要素が強くなってしまいましたが…)
① 黒繻子帯とは
繻子(しゅす)織りは「朱子織り」とも書き、サテンのことです。密度が高く地厚で、ツルツルとした手触りと光沢が特徴です。
ツルッとしてはいますが、締める時に滑ることはありません。むしろ塩瀬羽二重の帯のほうが滑りやすいように思います。
江戸から明治、大正時代に使われていた黒繻子帯は「昼夜帯」という両面使い(リバーシブル)の帯でした。
△「母子」上村松園 (昭和9年)(『上村松園展 ー本画と下図ー』(大塚巧藝社)1993年より)
この帯は両面が黒のようです。
△「晩秋」上村松園 (昭和18年)(前掲書より)
これは博多帯の裏が黒繻子帯になっているようです。引き抜き結び*なので、たれ部分だけ裏が出ています。
*引き抜き結び…帯を結ぶ時、たれの端まで抜いてひと結びするのではなく、たれ部分が残るように「太鼓になる部分だけを引き抜く」結び方
詳しくはこちらで説明しています。
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②お染帯
黒地の帯とは少し離れますが、黒繻子部分が効果的に使われる美しい帯に「お染帯(おそめおび)」があります。
歌舞伎や人形浄瑠璃に登場する大坂油屋の娘お染が締めている帯から名付けられたものです。
麻の葉模様の鹿の子絞りの帯で、両端が黒繻子で縁取られていて、とても可愛らしい帯です。
緋色などの鮮やかな絞り染めとつややかな黒繻子のコントラストが魅力的で、これも幼い頃から大好きなものの一つでした。
△「晴日」上村松園 (昭和16年)(前掲書より)
着物の衿に掛けているのも黒繻子です。
帯の黒繻子と合っていて美しさを際立たせています。
今は自分が着用することが出来ない帯ですが、どんなに豪華な織の帯よりも、この粋であでやかなお染帯に私は惹かれてしまいます。
4歳の頃 お染帯を結んでもらってご機嫌な私
③黒繻子地の帯
これは昼夜帯ではなく、名古屋帯に刺繍を施したものです。
黒繻子には独特の艶があります。
これは子供用のだらり帯(作り帯)です。絽刺し刺繍のアップリケが黒地によく映えます。
10歳の娘が着用したところ
黒繻子帯はその重厚感やツヤ感によってどんな着物でもしっとりまとめることができ、また深い黒の色が女性を美しく見せます。
しかし、黒繻子帯はアンティークがほとんどで、現代は使われなくなりました。
2.黒い染帯と黒い織帯
現代の黒地の帯は一般的には次のようなものと思われます。
①染帯
いずれも塩瀬羽二重に刺繍の帯です。
塩瀬羽二重にお雛様を描いた帯です。
黒地の塩瀬羽二重は、紬から小紋まで色を選ばず、どんなきものにも合わせやすい帯です。
木綿地に刺し子刺繍の帯
②織帯
織の帯は少し改まった雰囲気になり、付下げや訪問着にも合わせられます。
華やかですがこれも地が黒です。黒色のせいか、この帯を締めると少し昔風の着姿になります。
現代は喪服や法事用の色無地にしか使いません。
3.黒い帯の優れた点
黒地の帯にはどんな魅力があるのでしょうか……
私が考えるのは次の3点です。
①全体を落ち着かせることができる
若い頃なら黒地の帯を締めることで大人っぽい装いになります。
中年以降には派手になった着物に黒地の帯を合わせることで着用できるようになります。
いずれも帯が装いを引き締めて落ち着かせているのだと思います。
②小物のコーディネートがしやすい
黒地の帯は着物の色に影響されにくいようで、どんな色の帯締めでも合うように思います。
自分がどんな雰囲気で着たいかによって帯揚げや帯締めの色を自由に選べるのは楽しいことです。
③汚れが目立たない
これは意外に大事な点で、白い帯は締めるだけで気を遣いますが、黒地は安心して着用でき、また長く愛用できます。
昔の黒繻子帯はこの点でも女性たちに愛されたのではないでしょうか。
受け継がれた帯も黒地のものだとシミなどが分かりにくいため着用可能な場合が多いです。(黒が退色している場合もありますが……)
次回は実際のコーディネート例をご紹介したいと思います。