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派手な着物を渋くする目引き染めとは? ~老松文様のきものを例に 小紋、付下げ、訪問着の違いも解説~

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今日は個性的な松の柄の着物を取り上げます。

訪問着なのか付下げなのか、はたまた小紋なのか……見分けが難しいのですが、大好きな一着です。

1.松文様のきもの

①タイトルは老松

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以前にもご紹介した松と青海波文様の付下げです。

母は袷で着ていましたが19歳のとき私が譲り受け、それからは単衣になっています。
私がこれを着て「長唄 老松」を踊ったことで、着物のタイトルを「老松」にしました。

こちらの記事で紹介しています。

②小紋? 付下げ? 訪問着?

この着物は「小紋」、「付下げ」、「訪問着」といったジャンルを決めるのが難しいものです。
まず、それらの一般的な定義は……

小紋

全体に細かい模様が入っているおしゃれ着で、模様は上向きと下向きが混在します。

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△小紋

付下げ

模様がすべて上を向くように配置されたきものです。縫い合わせ部分の模様は続いていません。

 

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△付下げ

訪問着

白生地を着物の形に仮縫いしてから縫合せの部分も模様が続くように染めたきものです。
また、そのような模様を「絵羽模様」といいます。

 

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△訪問着

 

*小紋の模様の向きについて

小紋では上向きと下向きの模様がなぜ混在するかというと、きものは肩山、袖山を境に折って仕立てるため、反物(生地)に一方向で柄が配置されると、仕立てたときに前と後ろの模様の向きが逆になるのです。

ですから小紋は普通繰り返し柄で、上下が混ざった模様を染めていきます。

 

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着物全体を見ると絵羽模様になっているのがわかります。

けれども、裾、胸、肩などの模様がすべてきっちりつながっているわけではありません。

 

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△袖付け

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△衽(おくみ)と前身頃の縫い目

縫い目の模様は合っていないので「訪問着」ではなく、柄がすべて上を向くように作られた「付下げ」だと思います。

このような曖昧なものを「絵羽付下げ」「付下げ訪問着」などと言うようです。

さらに、この着物は無地部分がない総柄なので、着用したときの印象は「小紋」になるかもしれません。

このように、きものの分類は明確なものではなく、柄や全体の雰囲気によっても変わります。

私も定義付けには意味がないと思っていますので、合わせる帯によって訪問着風な感じを出したり、小紋のようにカジュアルに装ったりして楽しむことにしています。

③歌舞伎鑑賞に

母はこの松文様のきものを新年会や謡曲の会などに着ていましたが、当時でも結構個性的で目立っていたように思います。

その姿を見ることは子供として嬉しかったのですが、いざ自分が着るとなると少し場所を選んでしまいます。

 

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黄緑色の地に緑の模様は人目を引く色合いです。

 

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青海波文様もちょっと形が変わっていて主張が強い気がします。

 

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△友人と国立劇場にて

目立つ色やデザインの着物は、大勢の観客がいる歌舞伎鑑賞には向いています。

舞台もロビーも華やかなので違和感がありません。

 

2.目引き染めで渋くする

もっといろいろな場所に着ていきたいと思い、目引き(めひき)染めという方法で少し渋くしてもらうことにしました。

①地色にグレーをかけて

上から何色を掛けるかは専門家に任せ、「今より色を抑えてほしい」という希望のみを伝えました。
グレー系の色を掛けたようです。

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黄色がかった地色が気になっていましたが、

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このようになりました。

 

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以前と同じ単衣に仕立ててもらいました。

 

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これは室内で撮影したもので、外に出るともう少し明るい色です。

②目引き染めの良さ

目引き染めのすごいところは、お気に入りの着物の寿命を延ばせることです。

柄(模様)が大きくて派手になってしまった…と思っても、全体に渋い色を掛けることで、模様の大きさが気にならなくなる場合もあります。

色大島

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駒絽の小紋

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それから「模様の赤が強くてもう絶対に着られない!」と思っても、着用可能になることもあります。

紗の着物からコートへ

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③合わせた帯など

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白地の博多帯にレースの帯揚げ、クリーム色の帯締めを合わせました。

出しゃばり気味の柄の着物には、おとなしい小物を合わせることにしています。

 

3.能楽堂へ

①宝生能楽堂について

今回訪れたのは東京・水道橋にある宝生能楽堂です。

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△宝生能楽堂(wikipedia.orgより)
(JR水道橋より徒歩3分、地下鉄都営三田線水道橋駅より徒歩1分)

主に宝生流の能公演が行われていますが、他流儀の催しもあります。

現在の宝生能楽堂が完成したのは1978年(昭和53年)、客席数は490で、当時としてはかなり広い見所(客席)でした。

完成当初は客席もロビーもきれいで広々としていることに驚きました。加えて都内の能楽堂の中では最も駅チカで便利な場所だったので、学生時代の私にとってはお気に入りの能楽堂でした。

2013年に堂内は改装され、宝生能楽堂は今も訪れやすく快適な場所です。

 

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△宝生能楽堂ロビーにて

②山姥の舞囃子

今回は能の公演ではなく、友人の発表会を見に行きました。

演目は舞囃子(まいばやし)「山姥(やまんば)」です。

舞囃子とは能の中のクライマックス部分だけを演じるもので、装束や面は付けずに着物と袴で舞います。
地謡によるコーラスと、囃子方による伴奏が入るので、演奏としては能とほぼ同じで盛り上がります。

山姥は山に棲む妖怪で、妄執に苦しみながらも仏法を説き、<山廻り(やまめぐり)>の様子を舞う部分が見せ場です。

 

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△能 山姥 (『能 修羅と艶の世界』堀上兼 能楽書林より)

友人の舞台は、美しさと哀愁の中に鬼気迫るものがあり、山姥が深山幽谷を山廻りする情景が目の前に広がりました。

③青い波ではなく山をイメージ

今回老松の着物を選んだのには理由がありました。

 

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地の模様が青海波にしては細長いので、着物全体が松林に思えたからです。波の模様ではなく、松の芽か葉、または松かさにも見えます。

 

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△普通の青海波 半円形が同心円状にきっちり並んでいます。

ひとたび松林のように思い始めると、緑の深山にも見えてきて、山姥が<山廻り>していそうな気になりました。

 

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△「三百年の松」

浜離宮恩賜庭園で見た古い松も思い出しました。

 

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いつもの独りよがりの妄想ですが、こうして舞台鑑賞の前からきもの選びで楽しむことが出来ました。

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