今日は9月のきものを取り上げます。
薄物の絽と単衣の小紋、どちらも石摺りという技法で染めたもので、9月に着用しています。
1.9月になったら何を着る?
①40年前は涼しかった
近年は残暑が厳しく、9月に単衣のきものを着るのがつらくなってきた気がします。
本当に気候のせいなのか、40年前と昨年の9月の東京の最高気温を気象庁のデータで比べてみました。
1980年9月
最高気温の平均……26.1℃
1980年9月に30℃以上だった日は前半の5日間のみ。それも最高が31.9℃でした。
そして9/14以降は30℃にならず、9/23~30の8日間は25℃以下でした。
2019年9月
最高気温の平均……29.4℃
2019年9月に30℃以上だった日は12日間。しかも33℃以上が4日もあり、最高は36.2℃でした。
単衣で過ごしやすい気温の25℃以下はたったの2日間でした。
このように昭和後期と最近では、9月の気温がずいぶん違っていることがわかります。
ただ、40年前は今ほど建物内の冷房が完備されておらず、地下鉄も暑く、夏や初秋の着物での外出はそれなりに大変だった記憶があります。
私は薄物(寿光織りレース)の着物に紗の袋帯を締めています。
②ガマンの9月
礼装・準礼装は別として、9月上旬は絽のきものがちょうどよいと私は思っています。
絽だけでなく、紗や麻でも、透け感が強くなくて色が濃いめのものなら、カジュアルな外出に着用しています。
「9月9日重陽の節句を境に単衣を」という説もありますが、私は15日頃まで幅をもたせています。(もちろん時と場所などを一応考えてからですが……。)
そして、きものが夏用なら、帯も夏物を合わせます。
9月も下旬になると、暑くても夏物では気分が落ち着かず楽しくないので、単衣を着ることが多いです。
そんなときは長襦袢や下着を涼しいものにし、少々我慢をして過ごしています。
2.9月上旬の石摺りのきもの
①石摺とは
石摺りは無地染めの技法のひとつです。染めた布地を石の石肌を利用したり、木目の立った板、文様を彫ったものの上に置いてブラシでこすり、ところどころ色がはげて、濃淡の色むらを出すものです。
以前は男物の着物(普段着の紬など)によく見られました。生地に渋い味わいが出るところから、好まれたものと思われます。
②駒絽の小紋
駒絽は駒撚糸(こまよりいと)という撚りを強くかけた糸で織り上げた絽のことです。
撚りをかけていない糸で織った平絽よりシャリ感があり、ペラペラしていないので、9月に着るのに向いています。(実際は駒絽のほうが肌へまとわり付かないので、着用時は涼しく感じます)
大柄の秋草が描かれた小紋で、明るいオレンジ色だったものを「目引き染め」で少し落ち着かせたものです。
フラッシュの関係で着物が明るく撮れていますが…
こちらが実際の色に近いです。
若い頃は赤や朱が未婚女性の定番色だったので、オレンジ色でも気にせず盛夏に着用していました。
今では色の濃さが気になり、盛夏ではなく8月末~9月上旬に着用しています。
この着物の「目引き染め」については、こちらで取り上げています。
③麻の染め帯
絽のきものですので合わせるのは夏帯です。麻の九寸染帯を合わせました。
実はこの帯は芯が入っているため盛夏に締めるには重くて暑いため、もっぱら6月と9月に着用しています。
帯揚げは絽です。
帯締めは道明の「変り貝ノ口組」というしっかりした組み方のものです。
きものの色が強いので、帯と帯締めは無彩色に近い取り合わせにしました。
夏の着物や帯でも、どこかに少し秋らしい色や柄を取り入れることで、9月中旬頃まで着用できると思います。
3.9月下旬の石摺りのきもの
①季節のない唐花
ベージュの地に唐花文様の単衣小紋です。
9月下旬(9/23)に着用しています。
地色は秋らしいですが、唐花は季節を問わない柄なので、5月下旬~6月にも着用しています。
かすれたような摺り染めの上では、花も控えめな印象になります。
唐花は花としての具体性がない点が魅力で、甘くなり過ぎず取り合わせもしやすい文様です。
②組み織り帯
糸が斜めに交差して織られた組み織り帯(または組帯)と思われる帯です。
締め心地が良く合わせやすい八寸名古屋帯でなので、単衣の時期の強い味方です。
この帯についてはこちらで取り上げています。
③帯締めで引き締める
帯締めは2と同じ道明の「変り貝ノ口組」ですが、こっくりした色にして全体を引き締めました。
9月になると、「さて、何を着たらよいかしら…」と悩む人もいるかもしれません。
はじめは夏の名残を味わい、次は<きものを楽しむ秋>に向けての準備期間ととらえれば、着物選びも悩みではなくなると思います。