コーディネート/着方

「おはしょり」の歴史と難しいポイント ~おはしょりを考える1~

2019年2月3日

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「おはしょり」は、きものを着るときにちょっと神経を使いますね。

今日はおはしょりの歴史や着付けの際の問題点を考えます。

1.おはしょりとは?

①はしょる

「おはしょり」……漢字では「お端折り」ですね。

「はしょる」は「はしおる」が変化したもので、現代でも、短くしたり省略したりする意味でよく使われます。

また、「裾をはしょる」という表現は若者の間ではもう使われないかもしれませんが、きものを着る人には欠かせないワードです。

腰紐を締めるときと、雨の日、雨コートの下で着物の裾を折り上げるときの動作は、この言葉でないと説明できませんね。

②おはしょり

女性の着物は身長より長いので、それを腰部分で折り返して、帯の下に出して着ています。この部分がおはしょりです。

紐で丈を調節する合理的な方法です。また、きものは長年着ていると裾が擦り切れてしまうことがあります。

そんなときにも洗い張りをして裾を切って仕立て直せば、また着ることができます。おはしょりはとても便利なものといえます。

でも、おはしょりの歴史はそれほど古くはないようです。

 

2.おはしょりの歴史

①江戸時代

江戸時代初期のきものは身丈に合わせたもので、おはしょりはなかったようです。

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△江戸初期の小袖姿(『新訂国語総覧』京都書房2010年 より)

おはしょりは無く対丈(ついたけ*)で、細い帯を締めています。

*対丈きものの丈(たけ)が着丈と同じ長さのもので、おはしょりをしない着物のことです。男物や長襦袢、旅館の浴衣(ねまき)などが対丈です。

中期以降は丈が長くなり屋内では「お引きずり」姿になりました。お引きずりを着て外出するときは裾を引きあげて紐でしばっていたようです。

日本画で見ることが出来ます。

 

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△上村松園「春秋」の一部(昭和5年)(「太陽美人画シリーズ1」 平凡社昭和57年より)

②明治時代

明治時代はじめ頃はまだお引きずりだったようです。

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△明治初期の女性(明治7年撮影、『徳川おてんば姫』井手久美子著(東京キララ社2018年)より引用)

裾がきれいに地面についています。

しかし、次第に女性も動きやすい着方を求めたようで、明治中頃から、腰紐で最初から長さを調節する現代の着方になったようです。

③舞妓さん

昔の「お引きずり」は、現代では芸者さん・舞妓さんで見ることができます。

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△舞妓さんの室内でのお引きずり姿

お引きずりはとても優雅でスタイルよく見えますね。

 

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△屋外で褄を取る姿の舞妓さん

写真を撮られる場合はこの姿が決まりのようです。

 

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△裾を引き上げて紐(からげ紐)でしばった姿

移動のときは両手が空くのでこのスタイルのようです。

 

3.大正~昭和のおはしょり

我が家の古い写真で昔のおはしょりを見てみました。

①ぽってりしたおはしょり

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大正10年の写真です。

 

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正月五日の家族写真なので晴れ着だと思いますが、ずいぶんおはしょりがたっぷりしています。戦前の写真にはこのようにぼってりしたおはしょりがよく見られます。

 

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昭和10年頃。綺麗に着付けされていますが、おはしょりも自然でふっくらとしています。

 

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昭和20年代。黒留袖のおはしょりはかなりボリュームがあります。

 

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昭和20年代。実にさまざまなおはしょりです。雨模様だったようで、皆雨具を手にして、着物も短く着ています。

 

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昭和40年頃。抱え帯をしているせいでしょうか、おはしょりはそのままでふっくらしています。

②斜めのおはしょり

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昭和20年代。おはしょりはきれいな斜めになっています。

昭和50年頃までは、まだ街なかに着物の人をよく見かける時代でしたので、着方もさまざまで、斜めのおはしょりに違和感をおぼえることはありませんでした。

 

4.おはしょりの問題点

先日、「おはしょりがうまく出来ないのだけれど…」という話を友人から聞きました。そして、次の3点が彼女の悩みであることがわかりました。

①斜めになる
②長さの調節が難しい
③ぼってりする

これらは、3で紹介したような昔の時代では、悩みではなかったことかもしれません。

①<斜めになる>について

昭和時代は、上前の裾を上げるようにして着付けるのが一般的でした。横に真っ直ぐだと着崩れしているように見え、野暮ったいとされていたように思います。

そのような着方をすると、裾のラインが斜めになり、自然におはしょりも斜めに余ることになります。

 

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昭和40年頃。美容院で着付けしてもらいました。上前の裾がかなり上がっています。

現代では裾を真っ直ぐに着るのが主流のようですね。

②<長さ>について

現代では、おはしょりの長さの理想は人差し指くらい、約7~8cmが良いとされています。

また、若い頃、「おはしょりが少なすぎると貧相だが、多すぎると野暮ったい」と聞いたことはありますが、私は何cmとか意識したことがなく、きものの身丈によってときどき長かったり短かったりしています。

譲り受けたきものを着る場合には丈が短くておはしょりが十分でないのは仕方ないことですし、工夫して着ることの方が意味があると思うからです。

③<ぼってりする>について

現代の着付けでは、おはしょり部分が一重になるため、かなり薄いです。着物雑誌などで見られるおはしょりは、みなピタッと薄く貼り付いたようで、無駄がなくすっきりしています。

それらを見慣れると、厚みのあるおはしょりは不格好に感じるのかもしれません。

次回はこれらの悩みを解決するための方法をご紹介したいと思います。

 

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