生地

しな布の帯

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今日はしな布(しなふ)の帯を取り上げます。

素朴な茶色の帯ですが、独特の風合いがあり、取り合わせを楽しむこともできます。

1.しな布とは

①しな布・科布・榀布

しな布は、まだぬのとも呼ばれる古布で、科木(シナノキ)の樹皮から繊維をとって織ったものです。

縄文時代から衣装や装飾品などに利用されてきました。

「しな布」・「科布」・「榀布」といろいろに表記されるようです。

 

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私の帯にはこのように織り込まれています。

 

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松葉仕立て*の名古屋帯です。

*松葉仕立て……手先のみ半分に縫われていて、あとは開いた状態の名古屋帯のこと。手先の扱いが楽で、前の帯幅を自由に変えられます。

 

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ザラザラした感触ですが、素朴な味わいです。

しな布は現在は羽越(うえつ)地域(山形・新潟の県境)でのみ作られています。

沖縄の芭蕉布、静岡の葛布とともに、しな織りは「三大古代織」とされており、平成17年には「羽越しな布」として国の伝統的工芸品指定を受けています。

②シナノキとは

シナノキはアオイ科シナノキ属の落葉高木で日本特産種です。

長野県の古名である信濃は、古くは「科野」と記し、シナノキを多く産出したからだともいわれています。(参考:シナノキ/Wikipedia.org

 

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△シナノキの葉と樹皮(前掲ページより引用)

シナノキの樹皮は「シナ皮」とよばれ、繊維が強いので主にロープの材料とされてきました。
合成繊維のロープの普及であまり使われなくなった現在でも、大型船舶の一部ではまだ使用されているそうです。

また、最近は地球環境を見直す意味で麻などとともにロープへの利用が見直されています。(参考:前掲ページ

シナノキは、アイヌの人々にとっても大切な衣類の原料でした。

 

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△アイヌの衣服アットゥシ(オヒョウやシナノキを原料として織られた衣服)(アットゥシ/Wikipedia.orgより引用)

以下は以前ご紹介したものですが、おさらいしておきます。

 

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△シナノキの中皮(木村孝・監修(2002)『染め織りめぐり』 JTBキャンブックスより)

シナノキは、日本各地の山地にはえており高さは10mほどに成長する木で、古くから衣類や袋物などに使われてきましたが、苧麻や木綿の栽培がされ始めると、減少しはじめ、現在では山形県などでわずかに生産されています。

梅雨が開けた頃、シナノキ(6~8年の木)を伐採して外皮を剥ぎ芯を抜きます。外皮と芯の間にある中皮が糸になります。(参考:前掲書

 

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△しな布の糸(前掲書より)

左…糠で精錬した後の状態
奥…撚糸された糸

シナノキからできたシナ糸は手機によって、切れないよう湿らせながら長い時間をかけ織られます。

2.着用例

しな布の帯は単衣や夏の着物に合わせます。

5月終わり頃から9月まで、着用期間が長い帯です。

カジュアルなものであれば、きものの色や柄を選ばず、どんなものにでも締めることが出来ます。

今までの着用例を挙げてみます。

①芭蕉布のきものに

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芭蕉布としては珍しい藍色なので、茶色のしな布の帯とバッグが合います。

 

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樹皮から作られた帯に木製(白檀)の帯留めという同素材の組み合わせになりました。

②越後上布のきものに

この夏、何度も取り上げた越後上布ですが、しな布の帯とも良く合います。

 

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明るい色の越後上布に合わせています。

 

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金彩が施された焼物の帯留め(ブローチ)で、よそゆきな感じを出しています。(このきものは以下の記事で取り上げました。)

 

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藍格子絣の越後上布に合わせました。

 

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乱菊の花火に見立てた帯留めをしています。
(このきものは以下の記事で取り上げました。)

③麻絽のきものに

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麻絽のきものに合わせました。

浴衣として着るような派手な柄なので、帯で落ち着かせています。

 

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地味な帯と華やかな着物との落差を埋めるように、柄物の帯締めと帯飾りをしました。

 

特に意識はしていなかったのですが、今までは麻系のきものばかりに合わせていたことに気付きました。

これからはしな布の帯を木綿や絹のきものにも試してみようと思っています。

 

3.特徴と工夫

①素材の特徴

しな布の特徴はざっくりとした素材感だと思います。

初めて手で触ったときはそのザラザラ感に「え? これを締めるの?」とびっくりしたほどです。

布と呼ぶには少し無理があるその硬さと突っ張り感は帯だから締められるもので、縄文や弥生時代の人が身につけていた衣服に近い生地なのでしょう。

 

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△しな布の顕微鏡拡大写真

木の皮そのもののような糸です。

②柔らかくする工夫

ごわごわした手触りのしな布の帯を締めやすくするには、着用の2~3時間前に霧吹きで湿らせておくのが良いようです。

胴回りの部分にまんべんなく霧吹きの水をかけておくと、着る頃には乾きつつ適度に柔らかくなっています。

体に巻く部分が柔らかいと、着物を擦ることもなく締めやすくなります。

 

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上が湿らせた部分

 

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△硬い状態のしな布拡大写真(画面上の金属は印のまち針です)

↓湿らせると

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△水を含んだ状態のしな布拡大写真

少し膨らんで、繊維の粗い毛羽立ちが減っています。

「麻のきものに霧吹きで水を掛けると、きものが喜ぶのよ」と、昔母がよく言っていましたが、麻やしな布を身につけるようになって、その言葉の意味を実感できるようになりました。

湿らせながら丁寧に時間をかけて織られ、出来上がった麻やしな布の衣類は、そのあとも水と良い関係を保ちながら長生きするように感じました。
(以下の記事「麻のきものとシワ対策」参照)

 

今日はしな布の帯を取り上げました。

美しさとは程遠い素朴な布ですが、単衣や夏のきものをよく引き立てて涼しげな風情を演出します。

夏の「かごバッグ」と同じような魅力が、しな布の帯にはあるようです。

 

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