みなさんは「地機(じばた)」という言葉を聞いたことがありますか?
もっとも原始的な“はたおり”の技法(またはその道具)のことです。
先日銀座で結城紬の地機織りの見学をしてきました。今日は結城紬の魅力を紹介したいと思います。
1.「銀座さくら桟敷」での結城紬展
①銀座さくら桟敷(さじき)とは
6月半ば、友人と銀座にある和物店「さくら桟敷」に行きました。
さくら桟敷は京都嵐山に本店があります。
東京は銀座5丁目と歌舞伎座店、歌舞伎座地下2階 木挽町広場店があります。
私は歌舞伎見物の日にはいつも早めに木挽町広場に行き、さくら桟敷の髪飾りや小物、バッグなどを見るのが好きなのですが、呉服をたくさん扱っている銀座のお店に伺うのは初めてでした。
この日は結城紬(ゆうきつむぎ)の龍田屋(たつたや)さんが地機(じばた)織りの実演をしていました。
②地機織りの結城紬
地機織りとは、たて糸を腰のベルトで吊って、張り具合を調節しながら織るもので、いざり機ともいわれる原始的な織り方です。
藤貫さんに結城紬の説明をしていただきました。
真綿(まわた・絹の一種で蚕の繭を煮た物を引き伸ばして綿にした物)からこのように指先で糸を紡ぎだします。
結城紬一反分の糸を取るためには2〜3ヶ月を要するそうです。
この糸はよりをかけない「無撚」の糸です。よりをかけていないので空気を含んで軽く、保温性に優れています。
ところがこのように手で紡いだ「真綿手紬糸」は、高機(たかばた)とよばれる普通の織り機を使って織ることができません。たて糸を織り機に固定しピンと張り続けると、糸が切れやすくなってしまうからです。
そこで腰を使って糸の張力を加減しながら織っていきます。
藤貫さんが手にしている杼(ひ)(よこ糸を打ち込む道具)はいざり機特有のもので、刀杼(とうひ)と呼ばれます。
私には藤貫さんの体が織り機の一部となって結城紬を生み出しているように見えました。
この日は地機織りの結城紬のほかに、高機で織られた結城紬や結城縮(ゆうきちぢみ)*の反物がたくさん並べられており、手に取って見ることができました。
*結城縮(ゆうきちぢみ)…ヨコ糸に強く撚りをかけた撚糸(ねんし)を使って織ったもので、単衣の時期に着るもの
③さくら桟敷で撮影会?
さくら桟敷の中村店長がお店の前の歩道で写真を撮ってくださいました。
ガラスの帯留めは以前紹介したものですが、大きいので目立っています。
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向かって左が中村店長。右は丁寧に接客してくださった秋元さん。
2.結城紬の魅力
①風合い
真綿のみで織り上げられたふんわりとした柔らかさと軽さが結城紬の魅力です。そしてその風合いは年を経ると増していくと言われています。
洗い張りを繰り返して柔らかくなった藤貫さんのお祖母さまの結城紬を見せていただきました。触ってみると毛羽立ちのないカシミヤ?という感じでしっとりした柔らかさでした。
親子三代に渡って着られるという結城紬ですが、孫の代になると着心地が最高になるということでしょうか……。
②あたたかさ
結城紬は繊維にたっぷり空気を含むことでほっこりとした暖かさがあるので、冬の着物としても愛されています。
また、結城紬は着物だけでなく、冬のコートとしても優れていると思います。
③絣(かすり)の魅力
結城紬は絣でも有名です。
結城紬の絣は全てが手作業で、気の遠くなるような作業を重ねて完成しています。
白い部分は染まらないように糸でくくられていたところで、これによって織った時にかすり模様が出ます。
この「絣くくり」も根気のいる大変な作業だそうです。
さくら桟敷の展示会場の一番奥にも、値札が付いていない(貴重で値段を付けることが出来ない)美しく細かい絣文様の結城紬が展示されていました。
3.譲り受けた結城紬
最後に私が愛用している古い結城紬を見てみます。
母からの結城紬の中にはふんわり柔らかくなっているものもあります。
①縞結城
戦前の着物と思われます。
結城紬は昔、ほとんどが無地か縞模様だったとのこと。ですから結城紬を扱う産地問屋を縞屋と呼んでいたそうです。
②絣入り
亀甲絣や十字絣が入っています。
帯も結城紬です。
これは手触りがやわらかくなっている結城紬です。
頻繁に着用して洗い張りしたので、繊維が馴染んでいるのだと思います。
③染め結城
染めの結城紬は、結城紬の白生地を後染め加工します。
更紗文様やアラベスク模様が染められています。
藍染めは桜との相性が良いようです。
シダ柄の絵羽模様です。
織の帯を合わせてよそ行きの装いです。
このように染めの結城紬は本来の結城紬よりもカジュアルさを抑えた着物になることが多いようです。
④コートや帯
丈も長めにしたのでとてもあたたかいです。
*道中着……衿の形が着物のようになっている和装コートのことで、以前は衿が四角い「道行コート」よりカジュアルとされていました。
けれども最近は「着物衿コート」として、素材によってはフォーマルな着物にも着用するようです。
コートの衿についてはこちらで取り上げています。
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着物は絣模様のある綿薩摩(めんさつま)で、クリスマスブローチを帯留めにしています。