今回は「引き抜き帯」の3回目です。
先日、母の十三回忌の法事に「引き抜き帯」を実際に締めてみましたのでご紹介します。
※前回、前々回の記事は以下
1.十三回忌のきもの
①紺色の無地のきもの
紺色で、波の地紋の無地のきものです。(遠山文様にも見えます)
紋が付いていないので格は下がりますが、身内だけの法事のため、これを選びました。義母が着ていたもので、昭和時代はこの上に黒の一つ紋付き羽織を合わせていたと思われます。
この着物にした理由はもう一つあります……。
②引き抜き帯
この引き抜き帯は義母の母親のものです。
母と娘の「帯・着物」のコーディネートで着用したいと思いました。
以前ご紹介したように3通りあるお太鼓柄ですが……
少し渋めのツタ模様(b)にしました。
白で描かれた菊の模様(c)のほうが法事には合いますが、ツタの刺繍が気に入ったのです。
義母はこの帯を平成の初め頃に遺品として受け取りましたが、一度も着用しなかったようです。
昭和中期以降は新しい着物や帯がどんどん出てきた時代で、今のようにアンティーク物を着ることが一般的ではありませんでした。
ましてや引き抜き帯は特殊な締め方なので、手にしなかったのだと思います。
引き抜き帯は通常二重太鼓で結ぶのですが、試行錯誤するうちに一重のお太鼓*に出来ました。(余りはすべてお太鼓の中に収まっています)
*現代の喪服の帯は「悲しみが重ならないように」との意味で一重のお太鼓になる名古屋帯が使われることがほとんどらしいです。
③小物
紺の帯締めにグレーの帯揚げ(元はシフォンストール)を合わせました。
退色しているとはいえ、金糸の刺繍や金の模様がある帯を合わせているので、草履とバッグは喪服用の黒にしました。
2.法事の着物について
①失礼のない装いで
今日ご紹介した法事の装いは、身内だけの比較的気楽な十三回忌のものでした。
法事で故人への気持ちを表すために和装で参加するのは良いと思いますが、普通の帯を喪服用として使うときは少し注意が必要です。
地域の習慣や家の決まり事を考慮し失礼のないように、友人や親族として招かれた場合は、紋付きの色喪服*に黒喪帯、または色喪帯をきちんと着用することをおすすめします。
*色喪服…通夜や法事で着る黒以外の喪の略式礼装のことで、光沢が少なく、吉祥文様の地紋でない紋付き色無地です。
きものの場合、喪主や遺族以外は、一周忌になると色喪服を着ます。
色喪服を着る理由は、喪主よりも一つ格を下げる必要があるからです。
喪主や遺族は一年間は穢れがあり、喪に服するという考え方から黒を着ますが(帯は色喪帯の場合も)、それ以外の人は遺族より控えめにする意味も含めて、略式の服装が好ましいとされます。
洋装の場合、最近の法事は年忌にかかわらず誰もが黒の喪服を着るようになったので、着物の色喪服はかえって目立つようになってしまいました。
②年忌別の装い
以前もご紹介しましたが、過去の服装を年忌別にあげておきます。
一周忌
三回忌
七回忌
これは母が恩師の形見として所有していた引き抜き帯です。
このときは黒羽織を着用しました。
十三回忌
親戚の十三回忌。紋付きに地味な帯を合わせています。
3.昭和初期 引き抜き帯を着用した女性たち
3回にわたり「引き抜き帯」を取り上げましたが、最後に我が家に残る写真で私が好きな1枚をご紹介します。
昭和6年6月、東京市芝区(現:東京都港区)にある真福寺(しんぷくじ)の落慶式で撮影されたと思われる写真です。
きれいに髪を結い上げ、お揃いの紋付きを着た女性たちの後ろ姿。
帯はそれぞれ違いますが、引き抜き帯の人が多いように思われます。
現代人が、硬く四角い帯を薄くピッタリと背中に付けているのと違い、お太鼓もさまざまな表情があり面白いです。