今日は戦前の引き抜き帯をご紹介します。
一見普通の帯と同じに見えますが、引き抜き帯を普通に結ぶとお太鼓の柄が逆になってしまいます。
引き抜き帯とは、どんな帯でしょうか。
1.引き抜き帯
①引き抜き帯とは
江戸時代~大正、昭和初期に一般的に使用された丸帯の結び方からつけられた俗称です。
帯を結ぶ時、たれの端まで抜いてひと結びするのではなく、たれ部分が残るように「太鼓になる部分だけを引き抜く」という意味から名付けられたようです。
お太鼓結び以前に主流だった角出し結びをするために作られているので、今の帯とは違う柄の付き方をしています。
また、引き抜き帯は結んだりねじったりしやすいように、現代の帯より柔らかいものが多いようです。
②引き抜き帯の柄の付き方
引き抜き帯の柄の付き方について、春の柄・秋の柄両面使いの塩瀬羽二重の帯を例に説明します。
まず、帯を結んだ時のお太鼓の模樣を見てみましょう。
お太鼓の中ほどに岡崎と刺繍されているので岡崎城(愛知県岡崎市)だとわかりました。
流れる川は乙川(おとがわ)でしょうか……。
このように凝った刺繍がどのように配置されているかというと……
左のタレ部分は秋柄、右のお太鼓になる部分は春柄です。
そして柄の上下が反対になっています。
こちらは左が春の柄のタレ、右は秋の柄で上下が反対です。
なぜこのようになるかは、次に具体的に説明します。
2.Suicaペンギンで写真解説 引き抜き帯の結び方
引き抜き帯は単純な結び方なのですが、現代人にとってはわかりにくいものです。
そこで、以前Suicaペンギンで解説したときの写真を使ってもう一度説明します。
モデルと材料
左から
- Suicaペンギンペットボトルケース
- 帯のかわり……伊達衿
- 帯揚げ……髪用リボン
- 帯締め……紐
結び方
1)帯を胴に巻く
普通の結び方と同じように帯を胴に二巻きします。
2)たれを引き上げて結ぶ
手先(短い方)の上にたれ(長い方)をのせて、下からくぐらせたら一回結び、たれを引き抜いていきます。
3)たれの長さを決めて締める
ちょうどよいたれの長さになったらもう一度結び目をキュッと締めます。たれは帯の裏(白)が見えています。
4)帯枕と帯揚げをかける
お太鼓部分は二重になっているので二枚を揃えてから帯枕と帯揚げを当てます。
5)お太鼓を作る
お太鼓部分を下ろして内側に折ります。ここで柄の上下の向きが変わることになります。
帯締めを通して帯揚げを整えます。
6)完成
出来上がりました。
帯を折り畳まずに結んでいるので、その分お太鼓がふっくらして趣があります。
3.四君子(しくんし)文様の引き抜き帯
①帯の所有者
今回ご紹介する引き抜き帯の元の所有者は、明治28年(1895年)東京日本橋生まれの女性です。
1で取り上げた春と秋の刺繍帯の所有者は明治26年生まれですので、ほぼ同じ世代。
どちらも生地は黒地で、厚手の塩瀬羽二重です。
当時多くの既婚女性が持っていた帯なのではないでしょうか?
1の引き抜き帯は刺繍の傷みがあったため両面は使えず、片面使用の作り帯にリメイクして着用しています。
けれども今回の帯は退色以外の傷みはないので、そのまま両面使用できそうです。
②四君子に紅葉、ツタなど
帯は四君子文様です。
四君子とは、梅、蘭、竹、菊の4つの花が揃った文様のことで、この帯は四君子の他に紅葉、ツタ、松が丸い文様で描かれています。
両面使える帯ですが、華やかさが少し違います。
お太鼓は菊が中心で刺繍あり。やや華やかな面
お太鼓はツタ模樣(a)と白菊(b)の2つ。少し渋い面
aは刺繍が施されています。
bは白の濃淡で菊と蘭が描かれています。
一つの面にお太鼓柄が2つあるのは不思議ですが、引き抜きの結び方ゆえに可能になっています。
③ 3通りのお太鼓柄
お太鼓の柄
お太鼓の柄は3パターンですが…
いずれのお太鼓も、タレは無地でも刺繍でもどちらでも出せます。
前の部分
この帯は両面に四君子などの花丸文が描かれていて、華やかさに違いはあるものの、表と裏に季節の違いはほとんどないようです。
タレに紅葉の刺繍があるので秋に着用するならその部分を強調すればよいですが、全体的には季節を問わない柄なので、袷のシーズンならいつでも使える帯だと思います。
次回はこの帯を使った「引き抜き帯の締め方」です。