今月末で閉場する観世能楽堂(東京渋谷)の思い出です。
1.『二人静』の帯
紅花紬に塩瀬の帯。2月上旬の装いです。
帯の柄は早春の植物。
後ろは烏帽子。
これは謡曲『二人静』を題材にした帯で、烏帽子は静御前の舞装束の一部です。
2.謡曲『二人静』のあらすじ
旧暦1月7日、吉野勝手明神の神職が神社に供える為に若菜摘みを女に命じます。
菜摘み女が若菜を摘んでいるとそこに静御前の霊が現れ、自分の哀しい罪業のため一日経を書いて弔うよう言い残し消えます……。
静御前の霊が乗り移った菜摘み女が、神職の求めに応じ舞を舞い始めると、同じ装束を着た静御前の亡霊が現れ、影のように寄り添いながら二人して義経追慕の舞を舞う……。
という内容です。
シテ(静御前の霊)とツレ(菜摘女)が寸分違わず動くことが理想とされる相舞(あいまい)が見どころの能です。
3.祖母と母がお揃いの帯で……
1974年、観世能楽堂。
祖母と母はこの帯を締め、『二人静』の素謡*でシテとツレをつとめました。
*素謡(すうたい)…囃子や所作がなく、謡だけで演じられる能の形式
謡だけで息の合った相舞を表現する為に、お揃いの帯の力を借りたのでしょう。
観世能楽堂の玄関前で
40代の母と70代の祖母です。
帯は色違いで誂えたようです。
祖母の付き添い役で私(中学生)も参加しました。
この日は祝日のせいか、神奈川県の自宅からひどい渋滞に巻き込まれながらギリギリで楽屋に到着した祖母。
かなり疲れた様子だったので、舞台に上がれるか心配しましたが、私に会うと「○○(私)ちゃんの着物姿を見たから元気が出たわ」とやる気を出してくれました。
きものを着ているだけで祖母がそんなにも喜んでくれたことが嬉しく、また不思議だったことを覚えています。この頃から「着物は自分が楽しいだけでなく、人を明るくすることができるのかも?」と思い始めました。
4.40年後の観世能楽堂
高校時代から一緒に能楽堂に来ていた仲良しの友人と
人は変わっても能楽堂の中や玄関の様子は以前と同じで、まだ綺麗にも思えますが、老朽化が進んだとのこと。1972年の開場から43年が経ったのです。
移転先は銀座だそうです。新しい場所での観世流の演能を今から楽しみにしています。
渋谷区松涛の観世能楽堂は3月27日~30日「観世能楽堂さよなら公演」を開催予定です。