今日は裾模様のある<紙布>のきものをご紹介します。
白石の和紙を材料として、京都で作られたものです。
1.紙布に絞りの裾模様
①紙布
紙布は和紙から糸を作り、それを織り上げて布にしたものです。通気性と肌触りの良さが特徴で、単衣のきものに適しています。
詳しくは以下で取り上げています。
関連記事
②きものを掛けて見る
きものは着姿として目に映る印象の他に、広げて掛けたときに現れる別の魅力もあります。
この着物は掛けたときに迫力が感じられます。
それは、紙布だからこそ生まれた面白さかもしれません。
紙糸の素朴な風合いと、紙の上で絵の具を走らせたかにも見える躍動感ある模様が特徴的です。
③絞り
きものの模様は絞りによるもので、立体感があります。
④生地
生地はざっくりとしていますが、麻のようなザラつく手触りではなく、硬めのガーゼのような感じです。
さらに拡大しました。
タテ糸とヨコ糸は紙ですが、タテに絹糸と思われる細い糸が見えます。
生地について、製造元のお店に聞いてみることにしました。
2.京都「誉田屋源兵衛」製
①きものが作られた頃
このきものは、京都の誉田屋源兵衛(こんだやげんべい)*で作られたものでした。
*誉田屋源兵衛……京都室町で 創業280年の帯の製造販売の老舗
製作年は平成7~8年頃ではないかと思われます。
②素材に関して
「誉田屋源兵衛」専務の岩津さんに改めて聞いたところ、白石の和紙を京都で糸にしたもので織られているそうです。
特徴はタテ糸に絹糸を通している点。
布を織る場合、タテ糸を13~15mはらなければなりませんが、タテ、ヨコ共に紙糸にすると技術的に織るのが大変です。
そこでタテ糸に絹糸を通す工夫をしたそうです。
このようにして織られた紙布は、「八桑衣(はっそうごろも)」というタイトルがつけられていたそうです。
③着やすさ
岩津さんの説明によれば、タテ糸に絹糸を通すことで織りやすくなっただけでなく、軽く柔らかい仕上がりになったそうです。
タテ、ヨコが紙糸100%の諸紙布(もろじふ)は、織り上がりがゴワゴワしているので、着やすくなるまでにかなりの年月を要します。
誉田屋源兵衛は、そんな諸紙布の欠点を補いながら、素朴な魅力をそのまま生かしたきものを作った、と岩田さんは言っていました。
紙布は体温や湿度の調節がしやすいので、蒸し暑い梅雨時に着るのがぴったりですが、誉田屋源兵衛十代目の山口源兵衛氏は、袷にして冬でも着用しているそうです。
以前紹介したこれらの紙布も、タテ糸に絹糸を入れて織られたものです。
3.着用例
①藍染の紬帯で
5月下旬、薄手の紬の名古屋帯と合わせました。
後ろは無地のきものなので、主張のある帯にしました。
ちょっとななめの画像ですが、絞り模様を合わせてとらえています。
②組帯で
6月上旬、組帯(くみおび)を合わせました。
組帯は組紐を作る方法で組まれた帯です。これは単衣帯なので6月や9月に重宝しています。
組帯は絹、紙布は紙ですが、それぞれざっくりした風合いに共通点があります。
きものと帯の色調が合っていることと、組帯にツヤがあるので、少しあらたまった装いになったようです。
今回の着用後にこの写真を見つけたのですが、母も同じ帯で同じような色の帯締めを合わせていたことに気が付きました。