前回は、「形を変えて受け継がれるきもの」を取り上げました。今日はその続きで、袴用の生地で作った道行コートをご紹介します。
1.「仙台平」絽の袴地
これは古い絽の袴地です。義父の遺した反物です。
右から「仙臺平(せんだいひら)機業株式会社製」と書いてあるようです。おそらく戦前のものでしょう。
絽目がはいっているので夏物の袴生地です。
*仙台平…宮城県仙台市で作られる絹織物です。江戸時代から明治、大正時代にかけて袴地の最高級品として知られました。
明治、大正頃は袴の需要も多く仙台でもいろいろな織元で作られていたようです。その一つである仙台平機業株式会社は大正8年(1919)に創設されたようですが、今はありません。
現在は「合資会社仙台平」の代表、甲田綏郎(こうだよしお)氏が重要無形文化財指定を受け、仙台平の技術を継承しています。
△甲田綏郎氏(1929~)重要無形文化財「精好仙台平」保持者、(『婦人画報の美しいキモノ』ハースト婦人画報社 2016年秋号より引用)
いつ頃からこの反物が我が家にあったのかは不明ですが、絽の袴地は軽く、普通の袴地よりしなやかです。そこで、道行コートに仕立てたら活用できるのではないかと思いました。
2.道行きコートに
①長年の汚れ
この反物がコートになるかどうかの判断も含め、すべて呉服屋(悉皆屋)さんにまかせることにしました。
そして、着る予定が決まっているわけではないので、ゆっくり作業をしてもらうようにお願いしました。
呉服屋さんは袴生地でコートを作るのは初めてだということでした。まず、コートのための要尺があるかどうかを確認したあと、長い年月の汚れをきれいにしました。(かなり汚れていたそうです)
②出来上がり
呉服屋さんには他に頼んでいたきものやコートがあり、それらを先に仕上げてもらったため、袴地のコートの出来上がりは半年後でした。
このように呉服屋さんにとって異例な、面倒臭いお願いは、いつも期限を付けずにお願いすることにしています。
このように出来上がりました。男性用の袴地なのでどうなるのか少し心配でしたが、縞が細いのでしっとりした雰囲気に仕上がりました。
3.着てみる
①絽つむぎに
絽目のある紬に合わせました。
袴地なのにつっぱる感じがないのは、絽で軽いからだと思います。
ドレープ感もあります。夏の生地との組み合わせで、涼しく着用できました。
しかしこのコート、遠目では絽であることはわかりません。袷のきものに合わせても良さそうです。
②薄手の袷のきものに
ムガシルクの袷のきものに着用しました。着用は4月中旬です。ムガシルクのきものは大変軽いので、単衣にコートを着たような気分でした。
(この着物は2018年4月22日の記事で取り上げています。)
③縦シボ縮緬のきものに
縦シボ縮緬の袷のきものに合わせてみました。
11月3日に着用しました。この日は暖かく、ちり除けとしての着用でしたが、12月上旬まではコートとして着られそうです。
模様のはっきりした着物を落ち着かせてくれました。男らしい地味な袴生地は、どんなきものにも合いそうです。
絽の袴生地は明るい所で見るとこのように透けています。
実際絽の袴は着用していても生地の重なりでほとんど透けないようです。(生地の薄さによる質感や裾の部分をよく見るとわかりますが)
絽の袴地コートは紗のような透け感がないため、意外にも長い期間着られるコートになりました。
4.感想
絽の仙台平。反物で見たときは、本当に道行きコートとして着られるか心配でしたが
- 軽い
- シワになりにくい
- 汚れにくい
- どんなきものにも合わせやすい
という優れた点がありました。これはまさに袴生地ならではの特長だと思います。
男らしい袴になるために長年待ち続けてくれたこの生地には申し訳ないですが、平成も終わりを迎える今から、次の時代まで、女性用のコートとして活躍してくれることを期待します。