今日は夏の着物、紗と絽を取り上げます。
夏の着物は見慣れないので、区別が難しいかもしれませんね。紗と絽は着用シーンに違いがあるのでしょうか……。
拡大写真も使って説明します。
1.紗(しゃ)と絽(ろ)
夏の着物の代表格は紗と絽です。
どちらも「搦み(からみ)織り」*という手法で織られています。
*搦み織り…綟り(もじり)織りともいい、ねじった2本のタテ糸をヨコ糸にからませて織ります。
①紗
横糸1本に、ねじったタテ糸を2本ずつ絡ませて織り上げたもので、一定間隔にすきまができるため通気性がよく透け感の強い生地になります。
もとは白地の着物でしたが、染めてコートにしたものです。
②絽
紗から発展したもので、からみ織りと平織りを組み合わせたものです。
タテ糸をねじってヨコ糸と交差させたあと、平織りを入れます。平織部分は隙間がないふつうの生地になります。
*平絽…撚(よ)りのかかっていない平糸で織られた絽。柔らかくツヤがあります。
*駒絽…強い撚りのかかった駒糸をつかった絽。肌触りがサラッとして涼しく着られます。
2. 絽と紗の違い
①着用シーンの違い
フォーマルには絽です。
訪問着や一つ紋無地など、あらたまった席用の着物はほとんど絽で作られています。絽は平織り部分があるので、模様を染めやすいためだと思われます。
また絽の方がタレ感がありしっとりと柔らかい着物になるので、あらたまった雰囲気になります。もちろん絽にはカジュアルな小紋もあります。
紗はセミフォーマルの付下げもあるようですが、ほとんどがカジュアルなきものです。
②どちらが涼しい?
紗の方が涼しいです。
隙間部分が多く、肌触りもシャリシャリしていてまとわりつかないからです。見た目も紗の方が涼しげに見えます。
ただし、その分長襦袢の色や丈などが表からわかるので、注意が必要になります。
そしてサラサラしているので、座ったり階段を上る動作などでは前がはだけやすく感じることがあります。
これはふしのある紬糸で織られた紗です。生糸ではないのでサラサラ感はひかえめです。
③着用期間は?
「紗は盛夏の着物だから、7月でも梅雨が明けてから着るのよ!」と母によく言われました。
絽も紗も同じ夏物ですが、違いは透け感によるものだと思います。
絽は7月から9月はじめまで着られるので、着用期間が少し長いようです。
ただし、これは着物の色やデザインによっても着用期間は変わるので、決まりごとではありません。
また、紗のきものでも長襦袢を色付きのものにして透け感を無くすと、長く着られる場合もあります。
3.拡大写真で見る紗と絽
①等間隔に隙間がある紗
道行コート
紗のコートです
拡大すると隙間がたくさんあることがよくわかります。
透けていますが、コートの下は夏物ではなく単衣を(または袷も)着ることができます。
紗紬
紗紬は糸にふしがあるのがわかります。
拡大すると糸の太さが一定でないため、隙間が小さいように見えます。
紗紬はカジュアルに、浴衣感覚で着ています。(写真右)
②生地と隙間が順序よく並ぶ絽
平絽
紫根染めの絞りのきものです。
拡大すると、ヨコ糸7本ごとに1本抜けているのがわかります。(七本絽といいます)
紫根絞りの盛岡草紫堂・初代藤田謙氏のデザインですが、絽の生地に絞りを施すのは難しい作業だということです。
駒絽
白っぽくてよくわかりませんが…
拡大すると、撚(よ)りのかかった糸が見えます。3本ごとにヨコ糸が抜かれています。
これは白地に水玉模様なので盛夏に着ています。
絽目がよく見えませんが
拡大すると、こちらも撚りのかかった三本絽であることがわかります。
これは地色が濃いので9月はじめにも着ています。
紗や絽といった薄物は、軽やかさとサラサラ感が最大の魅力です。
暑い季節にきものを着るのは少し勇気が必要かもしれませんが、実際に着用してみると袷のきものとは違う着心地を実感できると思います。
夏は浴衣しか着ない!という人も、これからは夏の着物にぜひ挑戦してみてください。