先月、米沢の「出羽の織座」が毎年東京で開催している展示会に行ってきました。
古代から作られてきた自然布や、江戸時代の美しい上布に目を奪われました。
1.からむしの帷子(かたびら)
今回のタイトルは「人と自然をつなぐもの 愛(藍)と苧麻(からむし)展」です。
①からむしとは
苧麻(からむし)とは、イラクサ科の多年草で、「ちょま」とも言います。その繊維を「青苧(あおそ)」と呼ぶこともあります。
繊維は細くて強く、光沢があることから高級な麻織物の「上布」などの材料として古くから利用されました。
昔は国内各地で栽培されていましたが、現在では福島、沖縄の両県が主産地のようです。葉の裏が白いのが特徴で、東北から九州まで広く分布しています。
目にすることはわりと簡単ですが、そこから繊維を取るのには大変な労力が必要です。
△苧麻(『上杉からむし文化の彩り 鷹山のなせる織物と復元』原始布・古代織参考館 2001年発行より)
②江戸時代の帷子(かたびら)
帷子は「単衣のきもの」という意味もありますが、特に夏の麻(上布)の小袖を指す言葉でもあります。
今回の展示でもっとも印象深かったのは、上品な色と豪華な刺繍が美しい、からむし地の帷子でした。
濃藍染に涼しげな色合いの松竹梅文様が描かれています。
裾には蓑亀が……。岩の刺繍は大胆で、きものに安定感を与えています。
豪華な紋付きの振袖です。
躍動感のあるデザインと、刺繍糸の鮮やかな色に驚かされました。
松と梅の刺繍は古さを感じさせず、生き生きとしています。
鼓文様はふつう皮と胴、それに掛けられた調べ緒(紐)が一緒に描かれることが多いですが、これは歌枕である「鼓の滝」(摂津国)に由来した意匠で、江戸時代の御所解(ごしょどき)文様と思われます。
古い能に「鼓の滝」というのもあったそうで、江戸時代の人が好んだデザインなのかもしれません。
流れ落ちる滝とバラバラの鼓の皮…そして急な流れに皮と調べ緒が飲み込まれてゆくさまは、美しくダイナミックです。
そして滝しぶきの冷気、いさぎよさも感じられる振袖です。
③江戸時代の子供のきもの
丹精込めて作られたこれらの帷子を、江戸時代のどんな人が着ていたのでしょうか。
女児はどんな髷を結っていたのでしょうか……。
からむしの布を作り、染め、刺繍を施し、仕立てた人、そして帷子を着ていた古の人に尊敬と憧れを感じました。
2.からむし製織の工程
1でご紹介した強靭で美しい上布はどのように作られるのでしょうか。
展示写真とからむしの参考資料から説明します。
①からむしの刈取り
7月末頃刈り取ります。(展示写真より)
②水浸け
水に浸けてから(3時間以上)皮をはぎます。(展示写真より)
③青苧引き
刃物で鬼皮をはぎ落とします。(展示写真より)
これを細かく裂いて、一本の糸に繋いでいきます。
④苧績み(おうみ)
皮を裂いて細い糸を作ります。難しい作業です。(前掲書より)
⑤撚り上がり
水に少量の晒し粉を入れて白くします。(前掲書より)
⑥織る
△からむし織居座機(前掲書より)
いざりばたで織ります。
3.出羽の織座
今回の展示会を主催した「出羽の織座」(山形県米沢市)は、失われた古代の布を研究し復元させるための織工房です。
絹や木綿以前の、木などの植物から作られていた布を「原始布」として商標登録しています。
そして「原始布・古代織参考館」(昭和58年開館)では、研究と復元に参考とした資料や収集した衣、布、織機、編具を展示しています。
△原始布・古代織参考館 米澤民藝館(前掲書より)
△出羽の織座主宰、原始布・古代織参考館館長 山村幸夫さん(東京交通会館2階ギャラリーにて 7/23撮影)
この日出会った魅力あふれる原始布などについては次回ご紹介します。