今回は白石の「拓本染め和紙」の方法や製品についてご紹介します。
前回までの記事はこちら↓
1.拓本染めを継ぐ
①拓本とは
佐藤忠太郎氏は昭和23年頃、紙衣の模様付けに用いた古い版木から模様を採取する過程で、拓本の技法を用いて紙に立体的な打ち出し模様を出すことに成功、拓本染めという技法を創作し、新たな白石紙衣製品を生み出しました。
そもそも拓本とはどのようなものでしょうか。
拓本……凹凸のある石碑、器具(硯、青銅器など)に紙や絹を被せて密着させ、上からタンポに含ませた墨を打ち(上墨;じょうぼく)、凹凸を写しとること、また写し取った紙や布のこと。写しとられた器物の像を拓影という。凹んだ部分が白く、凸部分が黒く紙上に現れる。
(Wikipedia.orgより)
十円玉に紙をのせて鉛筆で黒く塗ると硬貨の模様が残ります。これも拓本の一つのようです。
②佐藤文子さん
前回もご紹介しましたが、文子さんは佐藤忠太郎の後継者だった次男渉さんに嫁ぎ、数年後から自分でも拓本染めを始めました。
教えてはもらえなかったので夫の仕事を見て覚えたそうです。また、裁縫の腕を活かして自分で染めた茶羽織などを仕立てています。
紙は布のように一気に縫い進めることはできないので、一針一針返し縫いで仕上げ、大変だったそうです。
2.拓本染めの方法
「白石紙衣(拓紙)の作り方」というタイトルで展示解説がありましたので、抜粋してご紹介します。
①紙を染める
紙衣紙は草木の煮汁で染める。
②模様型つけ
型板を用意し、板面をコンニャク糊を含ませた布で湿らす。
板の上に染めた紙をのせてコンニャク糊を塗り、全体を湿らす。
長い竹の柄のついた刷毛で紙を叩き、板の凹凸にそって紙を落ち着かせる。
タンポ(綿を布で包み、縛った部分を持ち手にしたもの)に墨汁をつける。
タンポで軽く叩くようにして紙にまんべんなく墨をつけていく。
③型から紙をはがす
墨をつけた紙を静かにはがす。(紙には凹凸がしっかりついている)
④乾燥
日陰に干して乾かす。
乾いた紙に更にコンニャク糊をつけ、乾かして完成。
3.拓本染めの魅力
私が拓本染め和紙に魅せられた理由は3つあります。
①洗練された版木の模様
版木は、佐藤忠太郎が収集した18種類の江戸時代の型板が元となり、現代に受け継がれているものです。
その模様は伝統的で洗練されたものが多く、紙を見ているだけで楽しくなります。
「菱形格子」模様の版木。版木として使われなくなったあと切断され、たんすの引き出しに使用されていたため、取っ手の後が残っています。
展示されていた昭和時代の拓本和紙をアップでご紹介します。
特殊なもの
盛岡不来方(こずかた)城の襖絵を写したもの
②色の美しさ
紙衣は胡桃(くるみ)、黄蘗(きはだ)、浜茄子(はまなす)などの天然の染料で染める草木染めです。
淡い色合いが美しく、着物やその他のものに合わせやすいです。
(現代では一部化学染料も使用しています)
見本から選んでバッグを2つ作っていただきました。
③軽さと上品さ
拓本染め和紙は丈夫ですが、紙なのでバッグにしても大変軽く、持っている感じがしません。
そのわりには上品な存在感があるようです。
絹のきものに和紙のバッグという異素材の取り合わせが意外にしっくりくるのには驚きました。
春……お花見の季節に
夏……絽のきものと
冬……鬼しぼ縮緬のきものに
バッグは季節を問わず使用しています。
その他
△展示会当日、紙の博物館売店で購入した佐藤文子さん作の名刺入れ(1,500円)
バッグとおそろいで……。
和紙のバッグに入れるのは軽いものが良いです。
拓本染めの紙衣製品は、これからも大切に使っていきたい私の宝物です。
3回にわたり、白石の紙布と紙衣を取り上げました。 長い間お付き合いいただきありがとうございました。