今日は日本人にとって身近な模様である菊文を取り上げます。
菊文の種類や、菊の紋章、私の周りにある菊文様もご紹介します。
1.菊文とは
①菊文とは
菊を描いた模様のことですが、様々なデザインや形式があり、古くから愛用されています。
格調高い花柄なので、秋だけでなく、季節を問わず用いることができるとされています。
②菊の意味
菊は中国原産で奈良時代に薬草として日本に伝わりました。
そして日本でも中国流に、重陽の節句(九月九日)には菊花の宴を開いて菊酒に不老長寿を願い、鑑賞の対象とするようにもなりました。
菊文としての意匠化も鎌倉から室町時代にみられ、桃山時代には日本的意匠の秋草の一つとして扱われるようになりました。
江戸時代には菊の品種改良が進み種類も多くなったため、菊の意匠も可憐な野菊から大輪のものまで、様々な表現が現れました。
(参考:長崎巌監修・弓岡勝美編『きもの文様図鑑』平凡社 2005年)
美しさや香りだけでなく、長寿を意味するおめでたい花であるという点が、菊の特徴と言えるかもしれません。
△能 猩々乱(しょうじょうみだれ)(野村四郎・北村哲郎(1997)『能を彩る文様の世界』檜書店より)
不老長寿の秘薬である「菊水」(菊の酒)を酒壺から酌む猩々(酒の精)です。
この酒壺は汲んでも尽きることなく、泉のように酒で満たされています。そこから<尽きせぬ世>を連想させ、「猩々」は、祝言の能とされています。
装束は菊水文様唐織です。
③いろいろな菊文
形や趣の違うさまざまな種類があるのも菊の魅力ですが、それはそのまま菊の文様としての魅力にもなっています。
長崎巌監修・弓岡勝美編『きもの文様図鑑』平凡社 2005年に掲載された菊文を一部ご紹介します。どれも、一度は目にしたことのあるような馴染み深く美しいデザインです。
△光琳菊(こうりんぎく)
尾形光琳の画風が図案化されたもので、花弁が省略されているのが特徴です。
△一重菊(ひとえぎく)
品種改良前の野菊のようです。
△菊尽し(きくづくし)
八重や厚物(丸く大きくこんもりとした形のもの)、野菊など、何種かを集めた意匠です。
△菊の丸(きくのまる)
菊を丸形に構成したものです。
△菊水(きくすい)
流水に菊の花を浮かべた意匠で、菊花の宴にちなんだおめでたいものです。
△菊唐草(きくからくさ)
菊に唐草をあしらった唐草文様の一種です。
△乱菊(らんぎく)
管物(くだもの)といわれる花弁が管状になった華やかな菊が乱れるように咲いたデザインです。
2.菊の紋について
菊をモチーフにした紋は数多くあります。
花弁の数によって「十菊」「十二菊」「十六菊」、裏を向いた「裏菊」や「八重菊」「半菊」「菊水」等々、いろいろに図案化されています。
①皇室の紋
八重菊を図案化した「十六八重表菊」は天皇家の紋章として有名で、俗に「菊の御紋」とも呼ばれています。
1869年からは天皇(と東宮)しか使用できない家紋として正式に認定されました。
△皇室の菊花紋(十六八重表菊、Wikipedia.orgより)
②パスポートの菊紋
パスポートの表紙に使用されている菊紋は「十六一重表菊」で、皇室の紋とは少し違います。
日本国旅券の表紙に表示されているのは、十六八重表菊をデザイン化した十六一重表菊である。1920年の国際交通制度改良会議で、パスポートの表紙に国章を記すように採択されたが、当時の日本に法定の国章がなかったため、デザイン化した菊の紋章が1926年から採用された。
(Wikipedia.orgより)
菊は中国伝来のものですが、その後日本人に愛され続け、日本を象徴する花となりました。そして国の紋章の代わりにも用いられるようになったのです。
△日本の旅券(Wikipedia.orgより)
3.私の菊文
身の回りにある菊文をさがしてみました。
探せばまだまだありそうですが、今回はこのぐらいに。菊の文様は小物や日用品でもよく見かけますね。
現代でも私達は知らないうちに菊文様と接しているようです。