1.喪服、色喪服、地味な小紋
①通夜と葬儀……今は洋服で?
昭和の時代、通夜の参列者は色喪服*に黒喪帯、告別式は黒喪服に黒喪帯と決まっていましたが、次第に黒喪服のきものは喪主だけが着るようになり、参列者はきものを着なくなってきました。
*色喪服…通夜や法事で着る黒以外の喪の略式礼装。光沢が少なく、吉祥文様の地紋でない「一つ紋付き色無地」のこと。
コロナ禍では特に葬儀自体が変わり、少ない人数で地味に執り行うようになりました。
ですから、いくら黒とはいえ、目立ってしまう着物は参列者としてますますそぐわないものになったようです。
私も和の稽古事関係は別として、ふつうの葬儀には洋服で行くようになりました。寒い時期は着物のほうが暖かくて楽なのですが、周りに合わせています。
②年忌法要のきもの
年忌法要の参列は前もって準備ができるので、私は着物で行くことが多いです。
一周忌~七回忌
着物の場合、一周忌、三回忌、七回忌までは黒喪服や色喪服を着ます。
(喪主側は三回忌まで黒喪服、参列者側は一周忌から色喪服が一般的でしょうか)
十三回忌以降
故人が亡くなってから十年以上経って行われる十三回忌、十七回忌、二十三回忌、二十七回忌、三十三回忌は、法要にふさわしい装いであれば、地味な小紋や名古屋帯でも良いと私は考えます。
ただし、法要の規模や、喪主側か参列者側か、または地方や家のしきたりによって異なるので、あくまで個人の意見です。
③注意する点
洋装においては、通夜から年忌法要まですべて黒を着る人が最近多くなったようです。ですから、一周忌や三回忌に着物の色喪服を着ていくと目立つ場合があります。
目立つだけなら良いのですが、「あんな動きにくい格好をして、手伝う気がないのかしら?」などと否定的な見方をされることがあるかもしれません。
故人への心からの追悼や偲ぶ気持ちをいくら着物に込めていても、それが人に違和感を与えてしまったら残念ですので、立場や年齢、ほかの参列者とのバランスなどを考えて、心配ならば家族や親族、年配の方に相談してから決めるのが良いと思います。
2.二十三回忌のきもの
二十三回忌は亡くなってからすでに22年、前回の年忌法要から6年経っているので、親族や親しい友人のみが集まって故人を偲ぶ場合が多いようです。
服装は洋服ならダークスーツや地味めなワンピース、きものは色無地または地味な小紋がふさわしいと思います。
①紫の江戸小紋
3月上旬、義兄の二十三回忌に着用したのは義母が遺した江戸小紋のきものです。
義兄は50代で亡くなり、それから14年後に義母は他界しました。悲しみをあまり表に出さない義母でしたが、長男を突然亡くした時のショックは大きかったと思います。
義母とともに法要に参列する気持ちで紫の江戸小紋を着用しました。
鮫小紋(さめこもん)といわれるものです。
②鮫小紋とは
鮫小紋は江戸時代の武士の裃(かみしも)をルーツとする伝統的な型染め「江戸小紋」の一種です。
鮫肌(さめはだ)の模様をあらわしているところからこの名があります。
鮫肌はかたいことから鎧(よろい)に例えられ「厄除け、魔除け」の意味があるとされます。
白い粒は、キリで孔をあけて作られた型紙によって染め抜かれたもので、粒の細かさによって「並鮫」「中鮫」「極鮫」「極々鮫」というように呼び分けられています。
極とつくものは3㎝四方に800~900個の孔が彫られた型紙で染められています。
参考:『テキスタイル用語辞典』
③鮫小紋は特別?
私の感覚ですが、「鮫小紋」は大正~昭和の女性にとって特別なものだったようです。
鮫小紋は、ほかの裃の文様である「行儀(ぎょうぎ)」「角通し(かくどおし)」と並んで「江戸小紋三役」といわれる格の高いものです。(紋を付ければ細かい文様のものは訪問着や色無地と同格になると言われています)
また、鮫小紋は粒が弧を描くように並ぶので、遠目では柔らかな光沢を感じます。
ですから女性が好む模様なのだと思います。
私は子供の頃から「サメコモン」という言葉を母からよく聞かされ、「作るのに手間のかかる貴重なもの」として教えられました。
でも当時は、白いツブツブの半円形がどうしてサメなのかがわからず、不思議に思っていました。
3.着用例
①光沢感
近くで見ると地色は「濃色(こきいろ)」…黒みがかった深い紫色です。
けれども遠目では薄いグレーの無地に見え、光沢感があります。
②銀系の帯
銀系の帯を合わせました。
シルバーグレーの地に薄い藤紫色の冊子文(さっしもん・そうしもん)*が施されています。色喪帯としても、他の用途にも使える汎用性のある帯のようです。
*冊子文…和綴じの本を文様化したもの
帯揚げはグレーのスカーフ、帯締めは紫にしました。
③草履、バッグ、コート
着てみると意外に白っぽくて明るい着物だったので、草履とバッグは不祝儀用の黒にしました。
道行コートは紫にしました。
春の日差しに恵まれた法要でした。
* * *
今日は二十三回忌のきものを取り上げました。
この着物は紋がないのでカジュアルなお出かけにも向いています。
今後は少し華やかな取り合わせも試してみたいと思っています。