紬の無地のきものはとても便利です。
きものが絵画のキャンバスとなり、帯と小物で自由に絵を描くことができるからです。
先日着た無地の紬を例にとってご説明します。
1.一つ紋付きの紬
ベージュ系の紬です。
縫い紋が入っています。近くに寄らないとわからないほど目立たないものです。
私は紋のことは気にせず普通に着ていますが、生地に光沢があるせいか、織の帯を締めると紋付らしい少し改まった雰囲気にもなります。
一つ紋付きの紬は最近はあまり見かけませんが、昔は略式のお茶会や稽古ごとの小規模の発表会、目上の方を訪問する時など……重宝に着ていたようです。 昭和時代、黒の絵羽織にも合っていたことでしょう。
2.塩瀬の帯で季節感を出す
お雛様の柄はほんの限られた期間。でも女性として桃の節句にちなんだ物を身に付けるのは嬉しいものです。
無地のきものが帯を目立たせる為、古びたお雛様でも充分に雛祭りが演出できます。
歌舞伎座地下のお雛様の前で
この塩瀬の帯は母の娘時代、白地で締めていたそうです。 結婚後黒地に染め替え、晩年まで大切に使っていました。
帯締めは柄を邪魔しないような色を選びました。 帯揚げは白地に赤い絞りで華やかさを演出しました。
3.織の帯で落ち着いた雰囲気を出す
この帯は鎧縅(よろいおどし)*にもみえる織帯です。
*鎧縅…鎧(よろい)は平安時代から室町時代に使用された武将が用いる武具のこと
*縅(おどし)…鎧を作るため「小札(こざね)」という鉄片を革や組糸、綾紐などで綴じた構成のこと。又はその物をさします。
これらは配色が美しいので意匠化され、「鎧縅文様」として帯の文様などに使われています。
金糸の亀甲模様も加わり、華やかさもある織の帯です。 帯締と帯揚は紫系で揃え、渋めにしました。
この日は修羅物の能(武将がシテとして登場する能)なので、私も鎧縅に見立てた帯を締めることで、能を鑑賞する気分を高めました。
4.帯によって気分も変わる
歌舞伎座を訪れた際は柔らかい雰囲気の染め帯で軽快に。 能楽堂では少し重さのある織帯で落ち着きを……。
不思議なことに、見た目だけでなく着ている時の気分も変わるものです。
このように私にとって紬の無地のきものは、「この帯をぜひ締めたい!」と思い立った時の一番の助けになってくれています。 また、無地の紬には色々な形や柄のバッグが合わせ安いのも特徴だと思います。