先日、古い着物のリメイクをしてもらいました。若い頃の無地のきものが小紋に生まれ変わった例をご紹介します。
1.染め直しとは
染め直しとは、古くなったきものを、別の色や柄に染め直して新しく生まれ変わらせる方法です。
いろいろな方法があります。
①色揚げ
元の色を脱色せずに、上から暗色や同系色の濃色をかけて染める方法です。
柄を伏せて地色だけを濃い色に染める場合もあります。
②目引き染め
派手な着物に色を加えて地味にする方法です。
↓ ↓ ↓
△目引き染めの例(2016年9月17日の記事参照)
③抜き染め
色を一度抜いて新しい色に染め直す方法です。
* * *
染め直しは、きものの洗い張りをするように、解いて元の反物の状態に戻してから作業を行います。
色柄を抜く場合は白生地の状態に戻して精錬*し直し、新たに柄や色を染めます。
*精練…繊維に付いている不純物や埃・汚れを除去する処理。不純物は染色などの妨げになるために加工に先立って行います。
2.前回の染め直し
最初の色:オレンジ系
はじめは約40年前に紅花で染めてもらったオレンジ系のきものでした。東雲色(しののめいろ)または曙色とでもいうのでしょうか。明度の高い華やかな色でした。
派手になったのと、退色やシミがあったため、染め直してもらいました。
前回の染め直し:えんじ色
濃い色になりました。八掛も同系色です。
生地は厚手の縮緬です。
オレンジ系の時より落ち着いた色にはなりましたが、予想より濃い色だったためあまり着る機会がなく、しまい込んだままになっていました。
3.今回のリメイク
着なくなっていた無地のきものですが、今回は薄い色にし、少しだけ模様を描いてもらうことにしました。
①色抜き
濃いえんじ色を色抜きするとこのようになりました。もとの白生地にはなりませんでしたが、意外に良い色です。呉服屋(悉皆屋<しっかいや>;着物の染め直しなどをする業者)さんとも相談して、染めずにこの地色のまま進めることにしました。
②下絵
本来ならば次に下絵描き→糊置き→色挿し、という工程になります。
△下絵描き 出典:木村孝(2002)『染め織りめぐり』JTBキャンブックス
ツユクサの花を和紙に染み込ませた「青花(あおばな)紙」を水に溶かした液、または水溶性の化学染料で描きます。下絵を描くことを「青花付け」というそうです。
△糊置き 出典:前掲書
もち米糊やゴム糊を使います。「糸目糊置き」ともいい、絵柄の輪郭が糊によって染まらないため、あとで白い線となって残り絵画的になります。
△色挿し 出典:前掲書
細筆や小さな刷毛を使って色を挿していきます。
これらは大変手間のかかる作業です。しかし呉服屋さんからお得な提案がありました。
薄い地色ならば、ベテランの模様師さんが下絵無しで直接絵を描いてくれるというのです。もとから古典的な「四君子の花の丸」の柄が私の希望だったので、柄の大きさと場所だけ指定して、あとはおまかせすることにしました。
下描きなしのぶっつけ本番で描いてもらうので、描き慣れた古典柄は都合がいいようです。花の丸はこの先長く着られるよう、小さめにお願いしました。
* * *
③四君子花の丸
模様師さん描いてもらった柄を見てほしいと呉服屋さんが反物を持って来ました。
梅と竹(上)、菊と蘭の花の丸(下)。下絵無しに描かれたものです。
裏はこうなっています。
花の丸柄は上前(うわまえ)の下部分と両袖のみです。上半身は無地で良いと思いましたが、肩に1つだけ書き足してもらうことにしました。いずれにしても無地に近い小紋になります。
④八掛
八掛も染め直すつもりでしたが、呉服屋さんから「このままでも面白いのでは?」と言われました。確かに、八掛も同じ薄い色にするとよそ行き感が強くなります。気軽に着られるものにしたかったので、このまま使うことにしました。
4.出来上がり
見える柄はわずか三個。
後ろは無地です。
肩の下の柄も袖の柄も立っているときは見えません。
手を広げると見える、肩に描いてもらった百合の花の丸です。
「飛び柄小紋」*というには柄の数が少ないですが、控えめな感じが気に入りました。
*飛び柄小紋…柄をきもの全体に散点させていて、無地場の多い小紋。お茶席にもよく使われるので「茶席小紋」とも呼ばれています。
6箇所に手描きの花の丸を散らし、仕立て代含め約8万円でした。地色の染めや下絵・糊置きの工程が省略できたので、かなり安く仕上がったと思います。何よりも世界で1つの”オリジナルきもの”ができたことに満足しています。
クリスマスにホテルで行われたディナーショーに着て行きました♪
イベントの参加者はほとんどが洋服です。訪問着などの大げさなものでなくクリスマスの華やかさを出せるもの、ということでこのきものに袋帯を合わせて出かけました。
バッグは昔流行ったビーズです。最近またこの形のバッグをよく見かけるようになりましたね。久々の登場です。
実はこちらが表ですがちょっと派手。黒の多いほうが薄い色のきものにはよく合うので裏をメインにしました。
バッグが黒なので草履はきものと同じトーンにして、おとなしい雰囲気にしました。
5.染め直しの注意点
色抜きして染め直せるのは絹だけですが、絹ならどんなものでも可能というわけではないようです。
一番の問題は生地が弱っていないかどうかです。弱った部分は染めムラが起きたり擦れてしまったりするので、呉服屋さんは加工ができる生地しか引き受けてはくれません。
△引染め 出典:木村孝(2002)『染め織りめぐり』JTBキャンブックス
生地をピンと張って地色を染めます。弱った生地ではできない作業です。
また、染料の種類やシミがあるかどうかによっても仕上がりが違ってくるので、よく相談してお願いするのがよいと思います。
できれば途中経過を見せてもらって確認しながら仕上げてもらうと、再び大切に着られる良いきものになると思います。