先日、五島美術館で「古裂賞玩(こぎれしょうがん)」というタイトルの展示会を見てきました。
古い布を鑑賞するという日本の文化を改めて教えられました。
1.五島美術館「古裂賞玩(こぎれしょうがん)」
①五島美術館とは
東急グループの創設者である実業家五島慶太の美術コレクションを保存展示するために1960年に東京都世田谷区上野毛に開館した美術館です。
日本・東洋の古美術を中心に、国宝、重要文化財を含む約5000件を所蔵しています。(参考 Wikipedia)
②「古裂賞玩(こぎれしょうがん)」
昔の日本人が如何にして舶来の珍しい布<古裂>を<賞玩>…珍重して味わったり褒めたりして楽しんでいたのかを知ることができる展示でした。
△展示会チラシ
今回圧巻だったのは、舶来の布の小さな断片をアルバム状に貼付した裂手鑑(きれてかがみ)の展示です。
裂手鑑(きれてかがみ)は、江戸時代の大名茶人・豪商・公家たちが、蒐集した裂を茶入れの袋(仕覆)などに仕立て、そのあとの裁ち余りの裂を厚手の紙に貼り付けてアルバムのようにしたものです。
△裂手鑑 近衛家伝来
(展示会チラシより)
△名物裂手鑑『文龍』小堀遠州伝来
(展示会チラシより)
袋(仕覆)も数多く展示されていました。
△紹鷗緞子仕覆(じょうおうどんす しふく)
(展示会チラシより)
△望月間道仕覆(もちづきかんどう しふく)
(展示会チラシより)
これらの仕覆は文様がはっきり分かりましたが、中には傷んだり、生地の文様が擦れて見えなかったりするものもあり、裂手鑑のほうが分かりやすいと思うこともありました。
仕覆が高価で貴重なのはもちろんですが、綺麗なままに文様や質感を後世に伝えることができるという点では、ハギレのコレクションこそが希少な鑑賞物で、富や権力の証にもなる家宝だったのだと思います。
鼻息で飛んでしまいそうな小さな布を木のピンセットのようなもの?(が存在したかはわかりませんが…)で一つ一つ貼り付けていた当時の日本人(位の高い武士や公家、または彼らに雇われた専門職の人?)の真剣な眼差しと息遣い、気迫のようなものすら感じられ、私は圧倒されました。
③今回の展示を見て思ったこと
美しいものへの欲求
いろいろな美術館で名物裂の掛け軸や仕覆をたくさん見てきましたが、それらは古びていてあまりインパクトがなかったように思います。けれども今回見た様々な裂手鑑(きれてかがみ)や古裂の標本、名物裂収納箪笥などはどれも輝いていて、楽しく見る事ができました。
美と希少性、未知への欲求という人間味あふれる感情を展示品から受け取った気がしています。
△古裂標本『足徴奇観』松平定信蒐集
(展示会チラシより)
古裂への憧れは日本の文化
子供の頃から着物の布や帯地、時代裂や更紗の文様を見慣れていた私ですが、今回の展示でそれらの裂に憧れて執着することは日本の文化そのものなのだということに気付かされました。
私の母や明治生まれの祖母や親戚たちが古い裂や文様、袋物にこだわり、あんなにも憧れていたのは、この時代から脈々と日本人に受け継がれていた精神だったのでしょう。
「<布でできたもの>は古くなっても捨ててはいけない。工夫し形を変えて使いなさい。そして最後のボロ布をいかにきちんと整理して使い切るかが女性として大事なこと」
と母が折りに触れ言っていた言葉が思い出されます。(実行できてはいませんが^^;)
このような「裂への執着」は、戦争を生き延びてきたからだけでなく、その前からの日本人ならではの思想によるものだったのかもしれません。
2.ケイトウ文様の更紗の帯
①鶏頭手(けいとうで)とは
この日は「鶏頭手金更紗(けいとうできんさらさ)」の帯を着用しました。
鈴木時代裂研究所で復原された更紗文様で、同研究所制作の綿100%の袋帯です。
これはインドの草花模様ですが、鶏頭の花に似ているので「鶏頭手」と名付けられたようです。
他の更紗でも鶏頭手があります。
△静嘉堂文庫美術館所蔵の古渡り更紗(こわたりさらさ)*の「鶏頭手」
『静嘉堂 名物裂と古渡り更紗 鑑賞の手引』より
*古渡り更紗…江戸時代中期(18世紀中頃)までに伝来したインド起源の木綿布のことで、後世のものと区別して珍重されました。
△ケイトウ(Wikipediaより)
インド更紗の鮮やかな赤い花を見て、当時の日本人はケイトウの花を連想し愛着を感じたのでしょう。
②前は花が横向き
鈴木時代裂研究所によると、この更紗文様は縮小して制作されたとのこと。
小さい文様が密に並んでいるので、帯として胴に巻いたときは、倒れた花が趣の違う段模様のように見えます。
バッグはお揃いの生地で、以前から愛用していたものです。
この帯は木綿製ですが金があしらわれているので、付下げや無地に合わせるなど、よそ行きの雰囲気でも着られそうです。
3.菊文様の大島と更紗の羽織
当日の東京の最高気温は18.2℃。軽い羽織でちょうどよい陽気でした。
①菊文様の大島
私の10代からのお気に入り、十六菊文様の色大島を着用しました。
元はピンク色でしたが、「目引き染め」でグリーン系になっています。(こちらの記事で紹介しています)
↓
着物の上にはコートを着ようか迷いましたが、風が冷たくなかったので羽織を着るチャンス!と思いました。(羽織は前が開くので冬は大判ストールが必要になってしまいます)
②更紗の羽織
草花の更紗文様、紬地の羽織です。
最近はシックな長羽織を着る人が多い中、少し派手かもしれませんが気にしないで着用し電車にも乗っています。
羽織を着ると着物、帯、帯締め、羽織紐、すべての色柄がぶつかって洋服にはない雑然とした感じが出ますが、そこが着物の魅力だと思っています。
③若い頃のよそ行き草履をカジュアルに
若い頃はよそ行き用にしていた花柄の草履。足元まで花尽くしです。
(皮の鼻緒を布にすげ替えてカジュアルに履いています)
花いっぱいの草履に足を入れただけでテンションが上がる気がしました。
古裂をたっぷり鑑賞でき、大満足の一日でした。