先週のきものに引き続き、祖母からの帯をご紹介します。
1.「オランダ船(ぶね)の帯」
①絽塩瀬
この帯は明治生まれの祖母が若い頃に使用し、母が結婚する時に譲り受けた「絽の塩瀬羽二重*」です。
*塩瀬羽二重…「羽二重」は撚りを掛けない生糸で織った生地のことで、「塩瀬」は羽二重の中でも厚手のものを指します。これは夏用の絽織りになっています。
私は40歳頃から締めはじめました。
②お太鼓の柄
帆船が描かれています。
祖母や母は「オランダ船(ぶね)の帯」と言っていましたが、なぜオランダなのかは不明。鎖国時代の人にとって西洋は阿蘭陀(オランダ)を意味していたようなので、その名残*があったのかもしれません。
*学生服を「学ラン」と言いますが、ランとは江戸時代にオランダ人の洋服を隠語で「ランダ」と言っていたことから「学生用のランダ」→「学ラン」と呼ぶようになったとのことです。
③前の柄
これは和船でしょうか。右の船の旗には「二つ巴」らしき紋が描かれています。
左の船のアップ
右の船のアップ
2.巻き方が違う名古屋帯
①関西巻き
この帯、実は一般的な名古屋帯とは柄の付き方が違います。
帯を巻く時、自分の周りを時計回り(左から右)に巻かなくてはなりません。普段とは逆巻きです。
このような時計回りの巻き方を「関西巻き」といい、反時計回りを「関東巻き」といいます。
②関西巻きと関東巻きを比べてみる
関西巻きの帯
関東巻きの帯
このように並べてみるとわかりやすいのですが、畳んであると巻き方の違いはわからず、実際締める時に気付くことが多いようです。
同じ帯でも裏側を出すと関西巻きです。名古屋帯は両面に柄があるものも多く、柄の大きさや色を変えて幅広い年齢に合わせられるようになっているのだと思います。
さて、私にとっては逆巻きの帆船柄の帯ですが…
二部式作り帯にして締めることにしました。
3.二部式に直した理由
①楽しく締めたい!
毎年着用している大好きな帯ですが、「そうだ、逆巻きだった…」と思い出すたびにどうしてもテンションが下がります。ストレスを感じずに気楽に締めたいと思いました。
②扱い注意!
慣れないと締める時に帯に触る回数が増え、アンティークの帯には負担をかけることになります。この先も汚さずに長く使うために、手に触れる回数を少しでも減らしたいと思いました。
③柄の出し方を楽しみたい!
1本の帯だとお太鼓の柄や前の柄の出し方に制限がありますが、二部にすれば長さに余裕ができ、好きな部分を簡単に出せると思いました。
4.直す
①3分割
祖母からの帯を切ってしまうことには抵抗がありましたが、思い切ってハサミを入れました。
②お太鼓は作らずに
出来上がり。
お太鼓の帆船柄の位置を変えて締めたいので、お太鼓の形は作らず、たれに手先を付けただけの状態にしました。
(作り帯の作り方は2015年5月16日の記事参照)
5.締めてみる
作り帯に直す前と柄の出し方を変えて着用してみましたので比較したいと思います。
①直す前・いつもの締め方で
やわらか物の単衣の小紋に着用しています。
前は帆船が中央に来て華やかな感じです。(逆巻きなので帯の締め方がゆるいのがわかります)
帆船の上部は隠れていますが、波の青色がたくさん出ているので、きものの藍とマッチしているようです。
きものがやわらか系なので草履も白で少し改まった感じにしました。
②作り帯で
カジュアルな絽紬(ろつむぎ)に合わせてみました。帯は黒地の印象が強いようです。
今まで出したことのない二つ巴の旗を立てた船がメインになりました。帯揚げを波と同じ青にして、全体的にやや渋い感じになりました。
今までのメインの船はちょっとお休みです。
お太鼓いっぱいに帆船が出ました。波の青が消えた分、黒地が増えて帆船をくっきり浮き立たせているようです。
カジュアルな紬には黒い鼻緒が合います。(素材は麻です)
6.感想
毎年6月になると必ず1度は締める祖母の帯ですが、これからはもっと気楽に着用できそうです。
帯前の柄も自在に楽しめるようになったので、昔々丹精込めてこの船を描いた人にも喜んでもらえそうです。大切に使用して、ぜひ4代目の娘にも締めてほしいと思います。