今日は前回の記事で私が着用していた浴衣を取り上げます。
1.片野絞り
この浴衣は片野元彦という絞り染め作家のもので「片野絞り」といわれるものです。夏は浴衣を家で着ていた母ですが、この浴衣は着古すことなく大切にしていたため、傷みもなく綺麗に保存されていました。
2.片野元彦とは
1899年(明治32年)名古屋に生まれました。
若い頃は画家を志して岸田劉生(きしだりゅうせい)に師事しますが、劉生没後は染色工芸の道に入ります。そして昭和31年、57歳の時に民芸運動の創始者、柳宗悦(やなぎむねよし)から藍染絞りの再興を頼まれ、同時に陶芸家の河井寛次郎(かわいかんじろう)、型絵染め作家の芹沢銈介(せりざわけいすけ)へ師事することを勧められます。
*柳宗悦と芹沢銈介に関しては7月4日の記事参照
片野氏はそれ以降、藍染絞り作家としての道を歩み、独自の技法を確立して「片野絞り」と称される個性的な作品を作りました。昭和50年、75歳で亡くなりました。
3.本で見る片野元彦氏の作品
片野氏と親交があった随筆家・白洲正子著『衣匠美』(世界文化社)に片野氏の作品が数ページに渡って掲載されています。ここでは3点ご紹介します。
韓国木綿地。経縞(たてじま)と段文。日本民藝館蔵。
木綿地。熨斗目(のしめ)。小華繋文(しょうかつなぎもん)
紬地。藍染めと楊梅(ようばい・ヤマモモの皮)染め。立涌(たてわく)文。
藍染めという実用的な着物にもかかわらず、片野元彦氏の作品からは芸術的な美しさと湧き出るような力強さが感じられます。
4.帯と小物
全体はこんな感じです。
帯はピンクの紗。私の年齢ではもう派手かとかなり迷ったのですが「浴衣の時は柄が大きくても、そして帯は派手でも大丈夫!」と思い直してこの色を合わせてみました。
濃い紫の三分紐にアメジストとシルバーのブローチを帯留め代わりに使いました。
鎌倉彫りの下駄を合わせました。
5.片野絞りを着た感想
この浴衣は柔らかい木綿ですがやや厚手です。絞りなので肌に密着することはありませんが、麻素材の着物に比べればやはり暑いです。
でも藍の色が目立つのか、又は立涌の絞りが華やかなのか、待ち合わせ場所で二人の高齢女性から声を掛けられました。二人とも「涼しそうでいいですね!」と誉めて下さったのです。
肌をすべて覆う浴衣が洋服より暑いのは当然です。でも、何を着ても暑い猛暑日に”涼しそう”と感じてもらえたことは嬉しかったです。片野元彦氏の絞りの魅力をあらためて感じた日でした。