続々・テーマのある名古屋帯


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能のかぶりものを描いた名古屋帯シリーズ、最後の今日は鳥兜(とりかぶと)の帯を取り上げます。

1.鳥兜とは

鳥兜(鳥甲、とりかぶと)は、舞楽の常(つね)装束で用いられる頭に被る装飾品。舞楽以外には神社・仏閣での民俗芸能などでも用いられる。

鳳凰の頭部をかたちどったものとされ、鶏冠のような形状で縦に長く、後の首周りにはしころ(兜に付属し、首の後ろを守るパーツ)が付いている。 兜とは名づけられているものの錦や金襴で華麗に仕立てられ、舞楽の種類によっても微妙に色彩などが違う。

ウィキペディア「トリカブト」より)

そしてトリカブトといえばすぐに思い浮かぶのは植物です。

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△トリカブト(ウィキペディア「トリカブト」より)

日本三大有毒植物のトリカブトの名前の由来は花が装束の鳥兜に似ているところからと言われています。

 

2.舞楽の鳥兜

舞楽の装束については、魅力的な写真が満載の『美しき雅楽装束の世界』を参考に見ていきたいと思います。

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『美しき雅楽装束の世界』 遠藤徹著 青木信二撮影 淡交社2017年

  • 「舞楽」は、平安朝期に発達した「雅楽」を伴奏とする舞踊です。
  • 雅楽には他に器楽合奏の管絃(かんげん)、歌謡の催馬楽(さいばら)、朗詠(ろうえい)などがあります。
  • 舞楽の鳥兜(鳥甲)は、舞楽の装束のなかで、<襲(かさね)装束>*を着用する曲のほとんどで用いられるかぶり物のことで、鳳凰の頭をかたどっているところからの名称です。

*襲装束…常(つね)装束とも称し、最も多くの演目で用いられる装束。
構成は、鳥甲、袍(ほう)、半臂(はんぴ)、下襲(したがさね)、袴(指  貫・さしぬき)、赤大口(あかのおおくち)、忘緒(わすれお)、金帯(きん たい)、踏懸(ふがけ)、糸鞋(しかい)からなる。

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△襲装束(前掲書より)

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△鳥甲(とりかぶと)の側面(前掲書より)

この本では「かぶと」を「甲」と表記しています。

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△左方舞『北庭楽』(前掲書より)

襲装束に鳥甲を着用しています。

舞楽の鳥甲は金襴を使った豪華で美しいものだということがわかりました。

 

3.鳥兜の帯について

舞楽の鳥兜を見てきましたが、今回取り上げている鳥兜はそれに比べるとかなり地味です。

 

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これは能「富士太鼓」で使われる兜です。その兜は、舞楽の楽人であった夫の形見として舞台に登場します。

①能「富士太鼓」あらすじ

鎌倉末期、萩原院(花園天皇)の時代、管絃の会のため、天王寺から浅間という太鼓の楽人が宮中に召されました。

しかし、住吉の富士という楽人もその役を望んで都に上ります。管絃の役は浅間に決まりましたが、浅間は富士の差し出た振る舞いを憎んで、富士を殺してしまいました。

何も知らない富士の妻は夫の帰りが遅いのを心配して、子供と共に都にやって来ます。夫が討たれたことを知った妻は悲嘆に暮れます。

渡された形見の装束を身に着けた妻は、夫が非業の最期を遂げたのは太鼓のせい、太鼓こそ夫の敵だとして太鼓に打ちかかりました。

妻は夫の幽霊が乗り移ったかのようになり、散々に太鼓を打ったあと、悲しみの楽を奏します。
そしてなおも太鼓に恨みを残しながら、夫の形見を持って住吉に帰ってゆくのでした。

参考:『観世流初心読本・下』(檜書店 昭和41年発行)

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△舞台を描いた絵(『観世流初心読本・下』(檜書店 昭和41年発行)より

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△舞台写真(『能を彩る文様の世界』野村四郎・北村哲郎 共著 檜書店 2013年より

②羯鼓(かっこ)台

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帯の前の柄は何でしょうか?

能「富士太鼓」に登場する作り物(舞台に出し置かれる装置、大道具)を描いたものです。
<羯鼓台>というものだそうです。

 

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△羯鼓台

これは前掲の謡本に描かれていたものですが、説明によると

「羯鼓台(古式)… 図の如き羯鼓台の製法あり。古式にて現在は用いず、他曲にも用なし。羯鼓を中心に圓輪を作り、火炎を頂く。」

とあり、現在では使われない作り物であることがわかりました。
たしかに、①でご紹介した舞台の絵と写真では違う羯鼓台が使われています。

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△ 帯の羯鼓台

③羯鼓? 太鼓?

話が帯のことからそれてしまいますが、ここで一つ疑問が湧いてきました。

羯鼓という楽器は太鼓とは違うのでは? という疑問です。

「太鼓の上手」と能で表現されている楽人が打つのは雅楽の太鼓(釣太鼓)のはずです。

ここで2つの楽器を確認しておきます。

<羯鼓>

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△羯鼓(『美しき雅楽装束の世界』 遠藤徹著 青木信二撮影 淡交社2017年より)

(鞨鼓・かっこ)…雅楽で使われる打楽器。ふくらみのある円筒形の胴体の両側に、膜面を張り、革紐で締め、両側の面をバチでかき鳴らして用いる。

<釣太鼓>

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△釣太鼓(前掲書より)

(つりだいこ)…管絃などで用いられる太鼓で、鋲(びょう)打ちの両面太鼓が火炎飾りのある木製の枠に吊り下げられている。

羯鼓は吊り下げて演奏するものでないことや、打つのではなく「かき鳴らす」奏法であることからも、ここでは釣太鼓が本来の楽器なのだと思いました。

能の作り物は、演劇で言えば大道具に属しても、住居や船、岩、井戸など、本物とはほど遠い簡略化されたシンボルのようなものなので、羯鼓が下がっていても見る側は釣太鼓に見えるのだと思います。

 

4.鎌倉能舞台で古式の台を復原

帯に描かれた羯鼓台は古式であるがゆえに、現代では見ることが出来ないものと思っていましたが、「能を知る会®」を開催している鎌倉能舞台において、以前復原されていたことがわかりました。

①鎌倉能舞台とは

昭和45年(1970)日本の伝統文化「能楽」(ユネスコの世界無形文化遺産)の振興と普及を目的として創設されました。

定期公演「能を知る会®」を開催する他、能楽博物館として舞台・能面・能装束等を展示公開しています。

大人や子供向けの能楽教室を開催したり、定期公演「能を知る会」では、毎回字幕解説付きで能を上演し、演能前には解説を、演能後は質問コーナーがあり、鑑賞後の疑問点にわかりやすく答えてくれるという、大変ユニークで親しみやすい公演を行っています。

ウェブサイトアドレス     http://www.nohbutai.com/

②新調された古式の羯鼓台

鎌倉能舞台の中森さんに許可をいただきましたので、2003年の舞台で使われた古式羯鼓台の写真をご紹介します(写真はいずれも同会ウェブサイトの写真より)

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①舞台中央に置かれた羯鼓台

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②シテ(富士の妻)と子方

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③鳥兜をかぶったシテ

新調された古式の台は現代のものよりシンプルです。それゆえに登場人物をより引き立て、舞台空間を有効に活用できるように感じました。

今後も「富士太鼓」において、この美しい古式の羯鼓台が登場することがあれば良いと思いました。

 

5.鳥兜の帯 着用例

①紬の付下げに

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紬ですが付下げのようになっているきものです。
2018.1.28の記事で紹介しています)

 

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ぱっと見てすぐに能のかぶり物だとはわからないと思います。

 

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ましてやこの絵柄は不思議なものに見えますね。

②江戸小紋に

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江戸小紋のきものは遠目には無地に見えるので、帯の絵柄が映えます。

 

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きもののアップ

この江戸小紋は「初夢」*というタイトルで、江戸小紋の作家、小宮康孝さんが作られたものです。

*初夢…「一富士、二鷹、三なすび」として、藤の花・鷹の羽・丸い茄子が染められています。

2017.3.19の記事でも紹介しています)

 

今日は帯の柄からだいぶ脱線した話題になってしまいましたが、最後までお付き合い下さりありがとうございました。


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