先日、渋谷のセルリアンタワー能楽堂でピアノのコンサートが行われました。
源氏物語がテーマだったこともあり、アンティークの綴れ帯を着用しました。
1.綴れの引き抜き帯
①綴れ地
銀の綴れ帯です。
戦前のものですが綴れは丈夫なので傷みはありません。ただ、経年によるくすみがあります。
②扇文に刺繍
裏表すべて扇と流水の模様で、刺繍によって描かれています。
黒い刺繍で表した市松模様はとてもモダンに感じます。
③引き抜き帯のお太鼓と胴
昔の引き抜き帯*ですので、お太鼓と胴の柄は裏と表に2種類あります。
*引き抜き帯……江戸時代~大正、昭和初期に一般的に使用された丸帯の結び方からつけられた俗称です。帯を結ぶ時、たれの端まで抜いてひと結びするのではなく、たれ部分が残るように「太鼓になる部分だけを引き抜く」という意味から名付けられたようです。
引き抜き帯についてはこちらで説明しています。
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お太鼓①
お太鼓②
胴①
胴②
引き抜き帯は、帯を結ぶときにお太鼓柄の裏表を選べるので、お太鼓と胴の組み合わせは替えることができます。
この帯は過去にご紹介した羽衣の刺繍帯の所有者のものでした。
こちらです。
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2.能楽堂のコンサート「遠藤征志(せいじ)ピアノリサイタル」
①源氏物語54帖をピアノ曲に
「源氏物語54帖の響 文字の源氏を音の源氏へ」というコンサートでした。
作曲家・ピアニストの遠藤征志さんは、源氏物語の帖ごとに、登場する人物の心に焦点を当てて曲を作り、7年の歳月をかけて54帖全て作曲しました。
2017年からこのコンサートが始まり、今回はvol.3ということで、28帖から41帖までが演奏されました。
△コンサートのプログラム
△遠藤征志さん
(コンサートのチラシより)
遠藤さんのコンサートは以前にも鑑賞したことがありました。
△2019年、遠藤征志さんと
これは雅楽奏者の長谷川景光氏とのコンサート「CD『わくらば』のリリース.コンサート」のときにロビーで撮ったものです。
その記事はこちらに
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②能楽師 津村禮次郎さんとのコラボレーション
4年前の初演に続いて、シテ方観世流の能楽師 津村禮次郎(つむられいじろう)師が面を付けない直面(ひためん)で装束を付け、一部と二部でそれぞれ紫の上と光源氏を演じ分けていました。
津村さんが舞台脇の橋掛りから登場すると会場全体が引き締まるようでした。
そして遠藤さんの繊細なピアノ演奏に津村さんの謡が力強く響き、舞は品格と位の重さを感じさせるものでした。
△津村禮次郎さん
(コンサートのチラシより)
③雲隠の帖にも曲を
源氏物語41帖「幻」の次の帖「雲隠(くもがくれ)」には本文がなく、帖名のみが伝えられています。
源氏が生涯を終えたと思わせる帖です。
その帖にも遠藤さんは曲を作り、弦楽四重奏団と共に演奏されました。
④感想
●それぞれの帖によって音色や曲調が変わり聴き応えがありました。美しさ、儚さ、愛おしさ、哀しみなどの人間的な心情が、気高さをまといながら表現されていたように思います。
●ステージでの上ではなく舞台下にピアノが置かれていたので、遠藤さんが登場人物に心を寄せて全身で演奏する姿を近くで見ることができました。
●舞台下に付けられた照明装置で、舞台の柱や屋根が白やピンク、ブルーに変わり、幻想的でとても美しかったです。
能舞台の空間に広がりを感じ、能楽堂の新たな使い方、演劇や音楽の場としての能舞台の可能性を感じました。
●ピアノと謡曲は意外に合うことがわかりました。
3.扇文様の刺繍帯を着用
①ぼかしの訪問着に
当日はぼかしの着物を選びました。
帯の刺繍を際立たせるためには無地に近い着物が良いと思ったからです。
お太鼓は結んで作っているので、昔風の厚みがあります。厚みのあるお太鼓、私は懐かしくて好きです。
お太鼓柄は扇が大きい方を出しました。
②帯揚と帯締
帯揚は着物のぼかし部分のピンク色に合わせました。
この帯は刺繍糸が多彩なのであらゆる色の帯締を合わせることができます。迷った末、帯締は源氏物語からの「若紫」色を選びました。
③源氏物語の世界へ
優雅さを表す霞ぼかしの着物に平安時代を思わせる刺繍の扇文様…と思ってコーディネートしました。
帯の古さも「時代物」というワードで自分を納得させています。
何かと慌ただしい師走ですが、源氏物語の音楽に癒やされることを期待しての楽しい着物選びでした。
能楽堂にはいつもゆったりした時が流れています。