最近は丈が100cmまたはそれ以上の長羽織を着る人が多くなりましたが、今日取り上げる羽織は80cmです。
現代の感覚では短いかもしれませんが、着物との組み合わせによっては自然な装いになると思います。
1.紫の羽織
①海松菱(みるびし)文様
譲り受けた羽織の中で、なかなか着られないものがありました。それは紫の羽織です。
色は赤みを帯びた紫で、羽織の丈は80cmです。
地紋は海松菱(みるびし)文様です。
私は初めてこの模様に出会いました。
海松(みる)は海藻で、松の葉に似ていることからこの字が当てられたようです。
△ミル(海藻)(Wikipedia.orgより)
柔らかく動きのある海藻が、直線的な菱形を作っているユニークな意匠です。
海松文様にはこんなものもあります。
△海松立涌(みるたてわく)(長崎巌監修、弓岡勝美編(2005)『きもの文様図鑑』平凡社より)
立涌文様のなかに海松がただよっているデザインはおしゃれで、現代でもよく使われる文様です。
羽織の裏地は大胆な鱗(うろこ)文様です。
②着るのをためらっていた理由
羽織の紫色と繊細な地紋は気に入ったのですが、私はしばらく着るのをためらっていました。
その理由はいくつかあります。
- 紫色のインパクトが強いので現代にはそぐわないのでは?
- 紫色だと不祝儀?と思われそう
- 目立つ色だと丈が短いのが強調されそう
けれども、実際に着ないと雰囲気がわからないのが羽織の特徴でもあります。
眺めていても仕方がないので着てみることにしました。
2.着物の色によって変わる羽織の印象
①白っぽい着物の場合
もともと羽織と着物は対照的な色を組み合わせることが多いと思います。
まず、色としては絶対に合うはずの取り合わせをしてみました。
白とピンクの綸子地に紫系の地紙*(じがみ)文様が施された小紋です。
*地紙(じがみ)……扇の紙の部分のことです。
綸子の光沢感から少しよそ行きの雰囲気があります。
トルソーで試してみました。
羽織の裾ラインがはっきりするので、短さが強調されています。
私をふくめ年配者にとっては見慣れた感じですが、現代の着物に慣れた人は違和感を持ちそうです。
②近い色の場合
今度はほぼ同じ色の組み合わせです。
地色が同じ紫の小紋(縮緬地)を合わせました。
この場合きものと羽織が同化して羽織丈が気になりません。
帯周りを明るくして、全体が暗くならないようにしました。
紫の着物のアンサンブルを着ている感じでしょうか。
羽織と着物が同じ生地で作られていた昭和の「アンサンブルきもの」とは違う趣になりました。
3.同系色の大島に合わせてみた
最後はカジュアルな大島紬に合わせてみました。
着物の色が薄いので羽織との区別ははっきりしていますが、同系色でまとめているので違和感は少なめです。
着用したのは2月でした。
少し寒そうな印象の色大島ですが、羽織を着ることで暖かい雰囲気がプラスされました。
首元が寒かったのでファーマフラーをしました。
この羽織は柔らかものに合わせるより、紬などに気楽に羽織るほうが良いかもしれません。
羽織丈は衿を抜くことで後ろが少し長くなります。
154cmの私にとって丈が80cmの羽織はそれほど短くないようです。
今日は羽織丈に注目してみました。
現代の羽織りはフォーマルには使われず、カジュアルなおしゃれ上着です。
カーディガンやジャケットに様々な長さがあるように、羽織丈にも正解は無いと思います。
長羽織は現代的でエレガントですが、もっさりした印象になることも…また、長いコートと違って前がひらひらするのでちょっと動きにくいこともあります。
短い羽織はその点活動的で着やすいです。
着物との組み合わせで着こなしが変わるかもしれないので、皆さんもお母様やお祖母様の短い羽織りに挑戦してはいかがでしょうか?