一昨日、上野の東京国立博物館 表慶館で特別展を見学しました。
ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感! 日本の伝統芸能 歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界」です。
「体感!」というタイトルどおりに、各芸能の魅力を間近に感じられる展示でした。会期が3月13日までですので、取り急ぎご紹介します。
おわび:先週予告していた「肩や腕が痛くても着物は着られる? その2」は日を改めてアップさせていただきます。
1.ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感! 日本の伝統芸能―歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界」
①ユネスコ無形文化遺産とは
無形文化遺産(むけいぶんかいさん、Intangible Cultural Heritage)は、民俗文化財、フォークロア、口承伝統などの無形文化財を保護対象とした、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の事業の一つ。2006年に発効した無形文化遺産の保護に関する条約に基づく。無形文化遺産に対して、ユネスコの世界遺産は建築物など有形文化財を対象とする。関係して2001年から3回行われた傑作宣言による90件を引き継いて含まれる。
(ウィキペディアより)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E5%BD%A2%E6%96%87%E5%8C%96%E9%81%BA%E7%94%A3
ユネスコ無形文化遺産へは
2008年……歌舞伎、文楽、能楽
2009年……雅楽
2010年……組踊
という順で登録されました。
②表慶館とは
東京都台東区上野公園の東京国立博物館内にあるルネサンス様式の建造物です。
明治33年(1900)、皇太子(後の大正天皇)のご成婚を記念して計画され、明治42年(1909)に開館した、日本ではじめての本格的な美術館です。
明治末期の洋風建築を代表する建物として昭和53年(1978)、重要文化財に指定されました。
(東京国立博物館公式サイトより抜粋)
表慶館についてはこちらでも取り上げています。
③体感! 日本の伝統芸能―歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界
△当日のパンフレットより
「日本博」、「日本美を守り伝える『紡ぐプロジェクト』」の一環として開催されています。
当初は2020年3月からの会期だったものが新型コロナのため中止になり、本年内容を少し変更して開催されたようです。
はじめは多くの外国人にも体感してもらえるように準備されていたものなのでしょう。それが叶わなかったことが残念です。
2.歌舞伎の展示
①舞台と黒御簾
歌舞伎の展示では、舞台を再現したものがひときわ目を引きました。
舞台下手(しもて)の下座(げざ)音楽のコーナーも一部再現されていました。
黒御簾(くろみす)の内側から、舞台と客席はこんなふうに見えるのですね。
なかなか出来ない体験です。
②暫(しばらく)の衣裳
歌舞伎十八番のうち、「暫」の衣裳を近くで見ることが出来ました。
東京五輪の開会式で市川海老蔵が着用していた衣裳で、歌舞伎を代表する扮装のひとつです。
この錦絵より実際の舞台ではもっと大きく見えます。
子供の頃に初めて「暫」を見たときの驚きは忘れません。
人間としてあり得ない大きさの衣裳です。「一体あの袖はどうなっているのだろう?」と不思議でたまりませんでした。
これは武士の礼服である素袍(すおう)の袖を誇張したもので、中に棒が入っているのです。
白い模様は市川家の三升紋です。家紋の大きさにもビックリですね。
手を入れる部分を初めて確認することが出来ました!
③赤姫と政岡の衣裳
歌舞伎で綺麗な衣裳といえば、この<赤姫>と呼ばれるお姫様役の赤地の振袖です。
昔の少女たちの憧れだったのではないでしょうか。(私も憧れていました)
こちらは武家の中年女性、政岡(まさおか)が着用するもので、とても豪華です。
遠くからでも衣裳の重厚さがわかる立体的な刺繍が施されています。
衣裳の重厚感は、そのまま役の重さと心情を表しているようです。
このほか小道具や隈取の解説、錦絵、押隈(おしぐま)などが展示されていました。
また1899年(明治32年)に製作された映画フィルム、九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎による「紅葉狩」も見ることが出来ました。
3.文楽の展示
①三人遣い
文楽の部屋で出迎えてくれたのは、「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」道行初音旅(みちゆきはつねのたび) の狐忠信(きつねただのぶ)と、三人の人形遣い(マネキン人形)です。
この人の右手が人形の右手を、左手は人形の背穴に差し入れ、首(かしら)を持っています。
真ん中の中腰の人は両足を担当し(足遣い)、左側の人は右手で人形の左手に付けられた棒「差金(さしがね)」を持って遣います(左遣い)。
三人が無言のサインで息を合わせ、生きているかのように1体の人形を操ります。
(参考:展示説明パネル)
②政岡の衣裳
2-③の歌舞伎の衣装と似ています。
背中に手を入れる穴があります。
③「義経千本桜」と下駄
静御前が初音の鼓を打つシーンです。
この鼓は狐の皮で作られたという設定で、その狐の子が鼓を慕って追いかけてきました。
*鼓の皮は実際は馬皮で作られます。
人形の背中に左手を入れて首(かしら)を持っている<主遣い(おもづかい)>は…
特別な下駄を履いています。
「舞台下駄(ぶたいげた)」というそうで、人形を高い位置で支えて、隣の<足遣い>が動きやすいようにしているそうです。
舞台を見ている時はわかりませんでしたが、一体の人形を成人男性3人が身を寄せて操るのは大変ですね。
裏側をのぞくことで実感しました。
④太夫と三味線
義太夫節の演奏に使われるのはこの「太棹(ふとざお)」と呼ばれる三味線です。
一般的な三味線よりかなり大きくて重そう。バチも大きいです。
このように二人が並んで演奏します。(後ろには実際の語りと演奏が映し出されていました)
語りの人(太夫 たゆう)は小さな腰掛けを使っています。
「尻引(しりひき)」というそうです。この角度だとお腹に力が入り、大きな声が出せるのですね。
独特な字で書かれた台本も近くで見ることが出来ました。床本(ゆかほん)といい、節などのしるしが朱で入っています。
台本である「床本(ゆかほん)」を置く台です。
パネル解説によると、見台は太夫個人の持ち物で、演奏する段の格式や雰囲気に相応しいものを選ぶそうです。
美しい漆塗で、こんなに豪華な蒔絵が施されていることは知りませんでした。
時代、音楽、演目で共通点が多い歌舞伎と文楽ですが、歌舞伎は見て楽しむエンターテイメント、文楽は浄瑠璃を聞いて楽しむイメージが強いです。
歌舞伎と文楽の展示はどちらも舞台に上がって大道具や衣裳、人形などをいろいろな角度から見ることが出来たので、これら2コーナーだけでもかなり満足する展示でした。
長くなりましたので、続きは次回ご紹介します。