イベント訪問

熱海MOA美術館 その2 ~現存最古の能装束と竹屋町刺繍~

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前回に続いて、今日は現存最古の能装束が実際の舞台ではどのように見えたかなどをレポートします。

そして、竹屋町刺繍の帯についても取り上げます。

1.現存最古の能装束

①特別な演出の時だけの装束

前回ご紹介した現存最古の能装束「萌黄地菱蜻蛉単衣法被(もえぎじ ひしかげろう ひとえ はっぴ)」は、能「朝長」の小書(こがき =特殊演出)の時だけに使われるものだそうです。

二十六世観世宗家 観世清和(かんぜきよかず)師は4月初旬、この装束を着用して能「朝長 懺法(ともなが せんぼう)」をつとめました。

それは父である先代二十五世観世左近元正の「三十三回忌追善能」という特別な公演でした。
公演パンフレットによると、今回が4度目の「朝長 懺法」とのことです。

そしてその舞台の後にMOA美術館での装束展示となったのです。
(特別展示期間:4/22~5/8)

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△二十五世観世左近元正(かんぜさこんもとまさ)(1930-1990)

②能「朝長(ともなが)」

能「朝長」は、平治の乱で平家との戦いに破れて自害した、源義朝の次男・朝長が主人公の能です。

小書(こがき =特殊演出)の「懺法(せんぼう)」とは、能の後半、旅の僧(ワキ)が若くして亡くなった朝長のために唱えるお経「観音懺法(かんのんせんぼう)」*のことです。

*「観音懺法(かんのんせんぼう)」… 観音様を本尊にして死者のために懺悔(ざんげ)供養する儀式

ワキ僧の「観音懺法」の読経に導かれて現れた朝長の亡霊(若武者姿の後ジテ)は、源氏が戦に敗れたときの様子や、自身の最期を僧たちに語ります。

そして、能の終わりには、僧にさらなる回向を頼みながら消えてゆきます。

 

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△「朝長 懺法」観世清和(展覧会チラシより)

③能を見た感想

重く不気味

後ジテ(源朝長)が現れる前の囃子方の演奏が独特でとても重いものでした。

時間を掛けて「観音懺法」の法要の様子を表現していたのだと思います。

特に太鼓は通常とは違いかなり低い、デ~ンという音で演奏され、不気味で背筋が寒くなるような気さえしました。

幽霊登場!

演奏に聞き入っていると、いつの間にか舞台奥の橋掛かりに朝長の亡霊が……。(室町時代の装束を着ています。)

自らの意志ではなく、懺法のお経と囃子によって「思わず現れてしまった…」という雰囲気を漂わせて立っていました。

幽霊はこんな感じで現れるのか、という感覚です。

 

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△能舞台(舞台の左が橋掛かり)

装束が輝くのは?

驚いたことに、朝長の装束は大変綺麗で金糸が輝いて見えました。

客席から見る装束は15世紀のものとは思えない美しさで、トンボが十字模様のように光っていたのです。

その後MOA美術館で間近に見た装束は、渋く弱々しいものであったのに、舞台で華やかに見えたのは照明の力なのでしょうか?

私はそればかりではなく人が着用することで装束に息吹が注がれ、輝きを放ったのだと思っています。

古い着物も同じかもしれませんね…。

上演時間

2時間15分の長い能でしたが、通常とは違う演出と舞台の張り詰めた空気に圧倒され、少しも長く感じませんでした。

「観音懺法」の法要に観客も参列し、追善供養をしていたのかもしれません。

 

2.竹屋町刺繍の帯

現存最古の能装束が竹屋町刺繍で作られていることから、MOA美術館には竹屋町刺繍の帯で出かけました。

①竹屋町刺繍とは

竹屋町刺繍は竹屋町縫いとも言われます。

京都の竹屋町通りで生まれたのでこの名前があるそうです。

紗の生地に平金糸(ひらきんし)や色糸で刺繍を施したもので、掛け軸の表装などに使われます。

 

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△竹屋町刺繍の掛け軸の表装(部分)(出典:写真は鈴木一弘氏の個展案内状から)

竹屋町刺繍は、布のヨコ糸に沿って、平金糸(または色糸)でタテ糸をすくいながら文様を作っていきます。

特徴は、文様の端まで来た平金糸を切らずに三角に折って次の行の糸目にすすんで行く点です。

一目でも間違えると次の行に影響が出るので、気を抜くことができない大変な作業の繰り返しだそうです。(竹屋町刺繍の作家・時代裂研究所所長 鈴木一弘さんに聞いた話です)

同じく根気のいる伝統の刺繍技法には「絽ざし」もあります。絽ざしに使われる布は、紗ではなく絽です。

 

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△絽ざし専用の絽布と糸

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△絽ざし(バッグ)
絽ざしは布地全体を埋めるので、 一見すると織物のようです。

②紗の洒落袋帯

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紗の洒落袋(しゃれふくろ)帯です。

 

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裏地は紗ではないので透けません。

つまり紗の生地でも夏帯ではなく、単衣、袷のきものに向く帯だと思っています。

 

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刺繍がクリスマスカラーなので、12月下旬に着用したこともあります。

 

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帯地の織柄に合わせて竹屋町刺繍が施されています。

 

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こうすると糸が生地の細かい穴に渡されているのがわかります。

③よろけ縞小紋

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熱海は日帰り旅行の気分なので、柔らかものの着物の中でも気楽なよろけ縞の江戸小紋を合わせました。

 

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よろけ縞は曲線によって作られた縞柄で、よろよろと波打つような文様です。

 

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直線による縞文様はすっきりとした硬さがありますが、曲線のよろけ縞はやわらかい雰囲気を持っています。

でも、これは縦のよろけ縞というより、遠目には斜めに流れる白い模様のようです。

 

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△熱海MOA美術館 茶の庭にて

 

 

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