今日はつづれ織りと明(みん)綴れを取り上げます。
綴れ織りは世界中にあり、明綴れは中国発祥の技法です。京都祇園祭りの綴れ織りも紹介します。
1.綴れ織りとは
①綴れ織り
「綴錦(つづれにしき)」とも呼ばれる、技術と手間のかかる高級織物です。
英語ではタペストリーになりますが、タペストリーというと、綴れ織りの壁掛けを指す場合が多いです。
綴れ織りのうち、「本綴れ」と呼ばれるものは、爪を使って織り上げます。
経(たて)糸の下に図案を置き、図案通りに緯(よこ)糸をノコギリの歯のようにとがらせた爪で一本一本掻き寄せ、経糸を包み込むように模様を表していきます。
「爪綴れ」「爪掻綴れ」などとも呼びます。
爪掻綴れの帯については以下の記事で取り上げています。
②世界の綴れ織りと歴史
綴れ織りの歴史は古く、世界各地にあります。
- 紀元前のエジプトのコプト織り
- ペルシャ絨毯やキリム(トルコの毛織物)
- フランスのゴブラン織り
- 中国の刻糸(こくし)織り、明綴れ
などです。
日本には奈良時代に中国から伝わり、江戸時代中期頃から本格的に京都で生産されるようになったそうです。
参考:成田典子(2012)『テキスタイル用語辞典』テキスタイル・ツリー
△コプト織り(前掲書より)
△キリム(前掲書より)
△ゴブラン織り(前掲書より)
③京都祇園祭の綴れ織り
平安時代から続く京都祇園祭の山鉾は「動く世界の美術館」とも言われます。
山鉾には、歴史的・芸術的価値の高い綴れ織りの「懸装品(けそうひん)」*が使われているからです。
*懸装品…山鉾を飾るタペストリーなどの染織品のこと
④昭和後期の祇園祭
1984年、家族で祇園祭を見物した時に父が撮影した写真が残されていました。
前掛(前懸)はインド絨毯(これはその後2000年に復元されたそうです)
△見送り(背面の装飾)は「雲龍文綴錦」(2016年には伊藤若冲の「旭日鳳凰(きょくじつほうおう)図」の織物になりました)
前掛は波文様の綴れ錦ですが、現在は復元新調されたペルシャ絨毯だそうです。
左胴掛は上村松篁下絵の綴れ錦「花の汀図」(前年の昭和58年に新調されたもの)
2.明綴とは
①中国発祥
綴れ織りと同じく、明綴れも中国で生まれた技術です。
明(みん)は中国歴代王朝の一つ。(1368年 ~ 1644年)
日本と明との貿易は室町時代の1401年、足利義満が遣明船を派遣したことから始まり、日本には銅銭、生糸、織物、書物などが輸入されました。
以下は京都西陣の織物製造卸の方に伺ったことをご紹介します。
②明綴れの特徴
- 綴れ織りは、たて糸が太いため、生地はしっかりしていますが、明綴れは細い糸が使用されるため、とても柔らかく、生地にも模様にも厚みはありません。
- 明綴れの細いたて糸は本綴れの4倍ほどあり、そのたて糸によこ糸を綴っていくので細かい模様を織ることができます。
- 明綴れは糸が細すぎて爪では織れないため、櫛を使って織ります。
- 明綴れは厚みがないので、華やかというよりも上品な仕上がりになります。
打ち掛けを作る場合は、華やかさを出すために、明綴れに相良刺繍(さがらししゅう)*を組み合わせているそうです。
相良刺繍……糸で結び玉を作り、それを連ねて模様を描いていく刺繍
③愛用の明綴れ帯
前回ご紹介した紫の単衣一つ紋無地のきものには明綴れを合わせました。明綴れは本綴れより薄いので単衣の時期にぴったりです。
金通しのグレー地に牡丹唐草文様の袋帯です。
渋い色合いなので、華やかさを抑えた装いにしたいときに重宝しています。
薄いベージュに唐花唐草文様の袋帯です。同系色の糸を使っているので無地に近い感覚でも使え、どんなきものにも合う帯です。
柄と柄の間の穴は「はつり(把釣)」といいます。
色糸ごとにたて糸を包むようによこ糸を折り返して模様を作るため、たて糸に沿ってかすかな隙間ができています。
3.着用例
①グレー系
前回ご紹介した一つ紋付き単衣色無地に合わせています。
遠目で見ると「夜の月」ですが、牡丹が咲いています。
②ベージュ系
紫無地のきものは主張が強いので、帯周りは淡い印象に。やや太めの帯締めがポイントです。
これも紫系のきものですが、ぼかし風の小紋(袷)です。
控えめな金通しの袋帯は、合わせるきものに応じて格が決まるような気がします。
この写真は20代前半。辻が花染の訪問着に合わせています。隣の母は①のグレー系を締めています。
明綴れは軽いので、袋帯を締めている感じがせず、一日着用していても楽な帯です。
昭和時代の帯ですが、これからもいろいろなきものに合わせて楽しみたいと思います。