作者/作家

無地の綴れ帯 ~小合友之助と伊達静~

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帯合わせに悩んだ時、私には頼りになる帯があります。前々回の記事(2017.10.22)に登場した無地の綴れ帯です。

今日は詳しくご紹介します。

1.霞ぼかしの本綴れ帯

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これらの無地の帯は母から譲られた昭和中期のものですが、柄の多い染めのきものや、紬のきものなど、幅広く合わせることができます。

無地といっても横段のような霞ぼかしになっています。

 

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前はたて縞模様になります。

いずれも染色作家・小合友之助(おごう とものすけ)のデザインをもとに、綴れ織り作家・伊達静(だて しず)が織り上げたものです。

爪掻本綴織(つめかき ほんつづれおり)*特有の固さとしなやかさを合わせ持った大変締めやすい帯です。

*爪掻本綴織…手の爪をノコギリのようにギザギザにカットして横糸を爪で織りこんでいく技法で、西陣織のなかでも高度な技術が必要とされます。大変手間のかかる作業で、一日かけて数センチしか織れないということもあるそうです。

 

2.小合友之助と伊達静

 

①小合友之助とは

小合友之助(1898年-1966年)は 昭和時代の染色工芸家です。

・明治31年
京都で代々友禅の型彫りをする家に生まれました。
美術工芸学校を卒業後、都路華香(つじ-かこう)に日本画をまなびます。

・大正12年
院展に入選。
独学で油絵も描くなど、自由な創作活動を行いました。

・昭和2年
西陣織の旧家伊達家の六代目、伊達弥助の長女節と結婚。

・昭和4年
龍村織物の嘱託として図案の制作に携わり、龍村平蔵のもとで正倉院の染織研究や復元にかかわりました。

・昭和7年
34歳で染色工芸家として創作活動にはいり、帝展に入選。
模様の部分を蝋(ろう)で防染して制作する臈纈(ろうけち)染めによる独自の表現を確立しました。

・昭和22年
新匠美術工芸会を結成。その後、京都市立美大教授,日展評議員などをつとめました。

・昭和41年
68歳で死去。

<小合友之助の作品>

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△染額 『双馬図』(昭和10年)(小合友之助素描編集委員会(1988)『小合友之助素描』より)

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△臈纈 『山月屏風』(昭和21年)(前掲書より)

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△臈纈屏風『雨』(昭和28年)(前掲書より)

他に『上雲』(昭和38年)『今朝風流』(昭和40年)などがあります。

②伊達静とは

小合友之助の娘が伊達静です。

伊達家は元々西陣の織屋の名家で綴帯などを織っていた家で、屋号は井筒屋といいました。

明治維新後、西欧技術導入のため政府から西陣代表としてウィーンに派遣された四代目伊達弥助は、織物学校で織技を学び、欧州各地を視察して明治8年帰国。

産業革命ともいえるジャカード機(ジャガード機)を導入して、西陣を飛躍的に発展させました。

息子の五代目弥助は、種々の織物の改良に努め、明治23年に西陣機業界で初めて帝室技芸員となり、名工として全国に名を馳せました。

六代目弥助の長女 節と小合友之助の間に生まれた伊達静は、西陣の発展に貢献した先祖の後を継ぐべく七代目当主となり、 爪掻本綴作家として制作に取り組みました。

 

3.伊達静の落款

伊達静の帯には落款のようなものがあります。

 

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少しわかりにくいですがお太鼓の裏側に…

 

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カタカナの「ヨ」のような落款が織り出されています。

また、同じ綴れ帯の色違いには似たような落款も見られます。

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(これらの落款の違いについては不明です)

 

4.小合友之助の版画と素描

①版画

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△『朝陽富士(ちょうようふじ)』
手摺木版画(京都・美雲木版画社製)摺師:黒瀬勇
(164mm x 115m)

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△便箋と封筒
(銀座・鳩居堂で購入)

②デッサン

前述の『小合友之助素描』からご紹介します。
この本は、小合友之助が亡くなって20年あまり後に娘の伊達静が世に出したものです。

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△『小合友之助素描』の表紙(右)とカバー

小合友之助は歩くことが好きで、お洒落な人だったそうです。平素はたっつけ袴に筒袖姿でも、外出には粋な洋服を着こなしていました。彼のジャケットやコートには特注の大きな内ポケットがついていて、いつでもスケッチができるようにノートと鉛筆、少しの色鉛筆をしのばせていたそうです。

出典:『小合友之助素描』序文「さりげなく光る素描」(染色工芸家 佐野武夫)

 

<着物のデザインと思われる絵>

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<その他>

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これらの色は伊達静の綴れ帯の色に通じているように感じられました。

 

5.綴れ帯の着用例

過去にご紹介したものが多いですが、伊達静が織った綴れ帯の写真です。

①茶色

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総柄のきものとの相性が良く、落ち着くようです。

 

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多色使いの帯締めが楽しめます。

②ベージュ

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派手さをカバーする役を果たしています。

 

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帯留めが映えます。

 

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出番の少ない幅広の帯締めが使えます。

③グリーン

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鏑木清方美術館の展示に合わせて…

 

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羽子板の帯留めを活用するため、この帯は一役買っています。(2016年1月2日・10日の記事参照)

④水色

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着用は10年前。20代に着ていたきものが派手になってしまった為、この綴れ帯で華やかさを抑えました。

 

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藍地のきものの柄の色に合わせてみました。

 

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お太鼓はあまり段がはっきりしていませんが…

 

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前は縞がよくわかります。

⑤ピンク

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音楽会に出かけた時のものです。

⑥紫

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いずれも着用は秋です。

⑦友人の綴れ帯

お揃いではありませんが、友人も伊達静の帯を愛用しています。

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同じ作家ながら、こちらは段が鮮明に出ていて明るいイメージです。着用日は1月2日。春の七草が散りばめられた小紋のきものに綴れ帯が華やかさと格を添えているようです。

きものの中心に鮮やかな絵の具をのせたようになる伊達静の綴れ帯は、染色家である父・小合友之助の図案をもとに制作されたものです。

緻密に織り込まれていながら柔らかく滑らかな手触りで、織り手の女性らしさを感じさせます。

伊達静さんは数年前に亡くなられましたが、丈夫な爪掻本綴れ帯はこの先いつまでも使い続けることができそうです。

-作者/作家
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