今日はこの秋着用した紅葉のきものをご紹介します。
1.御召(おめし)のきもの
①秋限定?
・写実的
昭和30年代の御召*の付下げです。前回取り上げた薪能(2017.10.14の記事参照)に着用しました。
*御召(おめし)…御召縮緬(おめしちりめん)ともいいます。先染めの糸を用いた平織りの織物で縮緬の一種です。徳川十一代将軍の徳川家斉が好んだところから「御召」の名があるそうです。(2017.2.26の記事参照)
枝が描かれ、どちらかと言えば写実的な紅葉です。
・寒色?
秋の紅葉の色はどこにもありませんが、この紫はなんとなく秋をイメージしてしまい、青楓を思い浮かべるのは難しいです。
紫は本来暖色でも寒色でもない中間色ですが、これは青紫にも見えるからか、秋冬に着たくなる色なのかもしれません。
ということで、わたしは10月から11月限定で着用しています。
・12月でも
以前にもご紹介していますが(2014.12.6)私が2歳の頃。母は30代前半です。12月2日の写真です。
きものしか着なかった母としては、この日は特別な装いというより、秋に着ていたきものを延長して着た感じというところでしょうか。(実際、東京の紅葉は12月上旬まで見ごろなので、それもありですね)
母はこの御召を40代前半までしか着ていなかったようですが、私は40代から着始め、まだまだ現役です。
②古さをカバー
きものの古めかしさをカバーするような取り合わせをしました。
・視線を帯周りに
ベージュがかった薄いピンク色の綴れ帯に多色の帯締。ピンク地に赤い絞りが入った帯揚です。
肩の紅葉を見た後、自然に帯周りに視線が行くことを期待しています。
・薄い色の帯
薄い色の帯ですっきりした印象を与えると、古い生地のもたついた感じが緩和されるような気がします。
霞ぼかしの綴れ帯。ほぼ無地なので後ろの柄がきれいに見え、後ろ姿を引き立ててくれます。
2.紫根絞りのきもの
①盛岡草紫堂初代のデザイン
盛岡出身の明治生まれの方の着物を、昭和50年頃形見として母が譲り受けたものです。
紅葉の他に源氏香が絞りで表されています。
草紫堂初代藤田謙氏の作品だそうです。このきものと、紫根絞りに関しては以前も取り上げていますので、御覧ください。(2015.11.22,11.29)
②老女の能
先日、「檜垣(ひがき)」という能を鑑賞しました。檜垣は能の世界では最も位(くらい)の高い老女物と言われる演目で、老女をシテとしています。
そして檜垣は老女物の中でもとくに秘曲とされる<三老女>*の能のひとつです。
*三老女…「檜垣」「関寺小町(せきでらこまち)」「姥捨(おばすて)」
△「檜垣」 梅若恭行(堀上謙(1986)『能/修羅と艶の世界』能楽書林より)
檜垣という重い曲を10月半ばに鑑賞するということで、きものは長い歴史を越えてきたこの紫根絞りの訪問着しかないと、早くから決めていました。
経年変化して落ち着いた紫根染めの紫。新しいものでは出せない色です。
薄茶色無地の綴れ帯で全体を抑えた雰囲気にしようと思いました。この帯は1でご紹介した帯の色違いです。
この着物の持ち主は生きていれば100歳以上。舞の名手だったそうです。檜垣のシテも齢100歳に近い女性で、もとは美女の誉れ高かった白拍子*。若き日のはなやぎを回想しながら舞います。
*白拍子…男装をして今様を歌いながら舞を舞う女性
2時間を越す能でしたが、囃子の演奏に導かれながら檜垣の世界を訪ね、老女の心に寄り添う気持ちで舞台を鑑賞することが出来ました。
自己満足ではありますが、こんな「思い入れ」の装い方もきものの楽しみの一つです。
3.無地の綴れ帯
2の紫根絞りのきものには以前、唐織の帯を合わせました。
華やかな席用に装いました。
後ろ姿も帯が主張していますね。
それに対して檜垣用に合わせた帯だとおとなしい感じになり、背中の絞りが引き立ちます。
帯によってその日の装いのストーリーが変わるので、帯合わせは面白いものです。いつも助けとなってくれるのが無地の綴れ帯です。次回にまたご紹介したいと思います。