上布のきものを代表する越後上布と宮古上布。盛夏のきものであるこれらの上布を二度に分けて取り上げます。
1.上布
①上布とは
上布(じょうふ)は、細い麻糸を平織りしてできる張りのある上等な麻織物で、縞や絣模様が多く、夏用のきものに使われます。
越後上布、宮古上布のほかに、近江上布、能登上布、八重山上布などがあります。江戸時代に藩主や幕府へ上納する品について麻の上質織物という意味で「上布」といわれるようになったそうです。
2.越後上布
①越後上布とは
「越後上布(えちごじょうふ)は、現在では新潟県南魚沼市、小千谷市を中心に生産される、平織の麻織物。古くは魚沼から頚城、古志の地域で広く作られていた。
縮織のものは小千谷縮、越後縮と言う。
1955年に、越後上布、小千谷縮が共に重要無形文化財に指定されている。また、2009年にはユネスコの無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」にも登録された。
上布の最高級品であり「東の越後、西の宮古」と呼ばれる日本を代表する織物。」(Wikipediaより)
②歴史
歴史は大変古く、1200年以上前の731年(天平3)に越後で織られた布が、奈良・東大寺の正倉院に「越布」として保存されているほどです。
3.越後上布ができるまで
越後上布の製作工程を木村孝監修『染め織りめぐり』(JTBキャンブックス)を引用しながら説明します。
越後上布の原料は苧麻(ちょま)といわれる麻のなかでも糸が細く上質なものです。現在は、苧麻(ちょま)の繊維を乾燥させた「青苧(あおそ)」を福島県昭和村から買い入れて使っています。
①苧績み(おうみ)
青苧を爪で裂き、口に含みながら撚りつなぎ糸を作ります。
ベテランでも一反分の糸を作るのに一ヶ月以上かかるそうです。
△苧績み 上が原料の青苧(『美しいキモノ』2015年秋号ハースト婦人画報社より)
②手括り(てくびり)
絣模様を付けるために残したい色の部分の上を糸でくくります。
△手括り(前掲書より)
③地機(いざり機)
乾燥すると糸が切れやすく高機(たかばた)は使えないために、昔ながらの地機(じばた)で織られます。一反が完成するのに三ヶ月以上を要するそうです。
△地機 (前掲書より)
腰に経糸(たていと)が付けられていて、体で糸の張りを調節しながら織ります。
④湯もみ・しぼとり
織り上がった布を温湯につけて糊を落とし(湯もみ)
足でもみます(しぼとり*)
*しぼとり…シワを取るの意
△しぼとり(前掲書より)
⑤雪晒し
布を雪原に広げ晒します。雪にさらすことで白地はより白くなり、絣模様なども輝きを増してきます。
△雪晒し(前掲書より)
4.重要無形文化財
3で紹介したように、越後上布といえば雪晒しが有名ですが、重要無形文化財指定の越後上布は以下の条件を満たしたものだそうです。
- すべて苧麻を手うみした糸を使用する
- 絣模様を付ける場合は、手くびりによる
- いざり機で織る
- しぼとりをする場合は、湯もみ、足ぶみ
- さらしは、雪晒し
しかし、このような伝統的工法を守った越後上布は極めて少なくなっているようです。現在はこの他に、緯糸の一部または全部が手績み糸で、経糸にラミー糸を使って高機で織る「古代越後上布」と、経緯とも上質なラミー糸を使って織る越後上布が流通しています。(参考:前掲書)
△白洲正子の越後上布(白洲正子(2000)『衣匠美』世界文化社より)
5.越後上布の着用例
①科布の帯で
昭和40年代の越後上布です。
科布の帯*を合わせました。
*科布…まだぬのとも呼ばれる古布で、科木(シナノキ)の樹皮から繊維をとって織ったものです。(2017.7.9の記事参照)
科布の帯はきものの色を選ばないので、合わせやすいです。きものの明るいトーンを抑えてくれています。
越後上布の生地を拡大してみました。
上質の麻だからか、質感はふんわりとしなやかで、つっぱる感じはありません。着用するとしっとりとした気持ちになれます。
このきものの唯一の弱点はシワになりやすいところです。下に落ちたものを拾おうとかがんだだけで、シワになります。
帯締めはブローチです。
七宝焼と思われます。
夏用の紐の空間を利用して
ブローチを挿しています。
パナマの草履を合わせました。
②羅の帯で
以前ご紹介したとき(2014.8.9)は、藍の羅の帯を合わせていました。
桔梗の可愛らしいデザインの帯です。
きものの絣が青色なので色を拾ったコーディネートになっています。
越後上布は雪に育まれたきものです。雪国の人が寒さに耐えながら丹精込めて作り上げた越後上布を、夏の盛りに涼しさを感じながら着るとき、作り手の方々に感謝をせずにはいられません。
次回は宮古上布を取り上げます。