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大倉集古館 特別展 芭蕉布 その2

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前回に続き、この夏に開催された芭蕉布展を取り上げます。

喜如嘉(きじょか)の芭蕉布の絣は古典柄だけでなく進化したユニークなものが多く、見るものを圧倒するパワーがありました。

1.第二章「喜如嘉の絣」

①喜如嘉の絣は明治時代から

喜如嘉の芭蕉に絣が入るようになったのは明治30年代。

それまでは上流階級は別として、自家用に織られていた庶民の芭蕉布はせいぜい縞や格子だったそうで、沖縄の織物が商品として扱われるようになってから、喜如嘉でも自家用以外に芭蕉布を織るようになりました。

そして他地域の織物を参考に、絣などを芭蕉布に取り入れるようになったようです。

 

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△平良敏子さんによる絣のデザイン案(展覧会図録『芭蕉布』より)

「絣柄は数字の世界。計算力(割り算)が必要なため誰でもできるというわけにはいかない。当初、比較的簡単な経絣からはじまり、高度な経緯絣が芭蕉布に組み込まれるようになって普及したのは、女性が学校に行くようになってからと言ってもよい。そして喜如嘉産の芭蕉布が注目されるようになっていった。」

(展覧会図録『芭蕉布』「喜如嘉の絣」より抜粋引用)

平良敏子さんは絣に対しての飽くなき探究心と得意の計算力で次々と新しい絣柄を生み出していきました。

②古典柄からの発展

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これは私が愛用している紬の琉球絣(袷)ですが、格子文のなかに特徴的な模様があります。

 

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沖縄の代表的な絣模様トゥイグワー(鳥柄)です。2羽で飛ぶ小鳥を表しています。

この代表的な柄を応用して、平良敏子さんはオリジナルのツバメ柄を考案しました。

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△芭蕉布の裂地「小鳥」(展示会グッズの絵葉書より)

バーナード・リーチが喜如嘉を訪れた際に「このツバメはまるで飛んでいるようだ」と感心したそうです。

私が特に気に入ったのはこの柄です。

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△芭蕉布の裂地「小鳥と柳」(展示会グッズの絵葉書より)

柳の中をツバメが勢いよく翔んでいるように見えます。そして柄に奥行きが感じられます。

柳にツバメは着物の定番の柄ですよね。でもこんなに元気なツバメ柄はめったにないように思いました。

 

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△紅型の柳とツバメ(『琉球紅型』青幻舎より)

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△藍型の柳とツバメ(『琉球紅型』青幻舎より)

沖縄紅型のツバメは花の中を優雅に翔んでいるようです。

③絣の名前あれこれ

絣の柄は日常生活で目にするいろいろなものをモチーフにしています。ユニークでセンスあふれる柄や楽しいネーミングの数々に、感心することばかりでした。

番匠(バンジョー)

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△芭蕉布裂地(展覧会図録『芭蕉布』より)

番匠は大工(だいく)のことですが、大工の使う指金、曲尺(かねじゃく)のことを番匠金(ばんじょうがね)というそうです。

模様としてはよく見る形ですが、印象深い名前です。

ケーキ柄

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△芭蕉布裂地(展覧会図録『芭蕉布』より)

ケーキとはアイスキャンディーのこと。

戦後の沖縄では棒付きのアイスをアイスケーキと呼んでいたことから付けられました。

「ケーキ柄? 何で?」と不思議に感じたことで、忘れられない名前になりました。

アキファテ

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△芭蕉布裂地(展覧会図録『芭蕉布』より)

「飽き果てる」ほどよく作ったという趣旨でこう呼ばれるようになったといい、経絣の定番柄だそうです。

 

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△芭蕉布 琉球着物(展覧会図録『芭蕉布』より)

けれどもこの作品は「飽き果てる」とは程遠い新鮮さがあり、とてもモダンです。

ジンコービーマー

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△芭蕉布裂地(展覧会図録『芭蕉布』より)

ジンコーとは銀行のことで、銀行の床のタイル模様から着想したそうです。

平良敏子さんは銀行での順番待ちで床を見ていたのでしょうか……

微笑ましいネーミングですが、絣柄として織り上げるのは大変な作業だったと思います。

 

2.現代的なきものと帯

展示の終盤に、心惹かれるきものと帯に出逢いました。

①絵羽風の着物

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△芭蕉布 着物「一玉 小鳥(ツタマートゥイグワー)」(展覧会図録『芭蕉布』より)

天女の羽衣かと思うほど薄く美しい着物で、袖と裾にツバメが神々しく翔んでいます。

格調の高さを会場に漂わせていました。

②セミの帯

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△芭蕉布 帯地「藍コーザーアササ」(展覧会図録『芭蕉布』より)

アササは蝉のことだそうです。

繊細な芭蕉布の中に、薄い羽の蝉が忍び込み一体化したかと思われるような作品です。

アササの連なりは古典柄の矢がすりにも見え、優れたデザイン性を感じました。

 

3.当日の着物

会期中、着物の入場者は入館料が200円引き(一般1300円)でした。

①藍の芭蕉布

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私の夏の定番、母から譲られた藍の芭蕉布を着用しました。

 

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母が紙布(しふ;詳細は下の参考をご覧下さい。)の着物と同じくらい大切にしていたもので、私も毎年着ています。

紙布も芭蕉布も適度なハリと柔らかさがあり、着心地の良さが共通点です。

母は体力が衰えた晩年も、楽なせいか好んでこの芭蕉布を着ていました。

この芭蕉布の着物がどこの制作かは不明です。

(参考)紙布について

紙布とは、和紙から糸を作り、それを織り上げて布にしたものです。紙布についてはこちらで取り上げています。

②バッグ

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ミニバッグは喜如嘉の芭蕉布です。

 

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トートバッグは科布(しなふ)です。故田中昭夫さんの藍型染めで、元はテーブルセンターでした。

詳しくはこちら

しな布のテーブルセンターを手提げバッグにリメイク

③帯

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帯は隙間の多い粗紗(あらしゃ)の名古屋帯です。

 

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拡大すると、かごやザルのようです。

私は子供の頃「夏の帯って穴あきだらけで不思議だなぁ……」と思っていました。

夏の帯についてはこちらで取り上げています。

 

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