今日は古い着物の復活エピソードです。
1.銭形平次の柄
これは、家に残っている木綿の紫根絞り*の中で一番古いものです。
*前の記事参照
初めは祖母の物だったのを母が譲り受けて着ていました。
子供の私にはこの柄、テレビで大川橋蔵扮する銭形平次が投げる銭に見え、「銭形平次の着物」と呼んでいました。 子供は時々おかしな連想をするものです。
出典:http://beijinduck.web.fc2.com/009.html
2.浴衣から袷の着物に……
懐かしい「銭形平次柄」の着物は、他の紫根絞りとは別の箪笥に古い物と共にしまわれていました。
手洗いされて綺麗になってはいますが、丈は裾上げされて対丈(ついたけ*)に、掛け衿は短くて不自然……。まるで寝巻きにされるのを待っているかのような状態でした。
*対丈…長襦袢のように身丈と同じ寸法のこと
裾上げを下ろしても私には身丈が足りず、着ないまま再び元の古着箪笥で眠ることになりそうでした。
ところが私より小柄な友人が引き取ってくれることになったのです。
浴衣として普段に着て欲しいと伝えたのですが、母を慕ってくれていた友人は、なんと袷の着物に仕立て直すことにしました。
3.悉皆屋さん登場
友人はまず、行き付けの呉服屋さんに依頼しました。
すると呉服屋さんは丹波篠山(兵庫県)に住む悉皆屋さん*を呼びました。
*悉皆屋(しっかいや)…呉服屋から依頼を受けて手入れや染め直し、仕立て全般をこなす着物プロデューサー兼コーディネーター。着物のあらゆる悩みを解決してくれる人といえる。
駆け付けた悉皆屋さんは初めに着物を見た時、浴衣として着ることを勧めたそうです。
でも、友人の
「長い期間着られる袷にしてほしい!」
との希望を聞き入れ、
「何とかやりくりしてみましょ」
と受けてくれました。
こうして「銭形平次のきもの」は悉皆屋さんに預けられ、2ヶ月後に復活しました。
4.仕立て上がった袷の木綿紫根絞り
改善された4ヵ所を見てみましょう。
①衿
掛衿は外され、つまむだけの「見せかけ衿」になっています。 しかし、近くで見てもそれとは気付きません。
②着丈
丈は「内あげ*」を下ろすことでギリギリ間に合ったようです。
*内あげ…きものの内側、帯で隠れる位置にあらかじめ施す縫込み。これによって仕立直しの際丈の調節ができる。
身丈は三尺九寸(約148.2cm)だそうです。
③袖丈
母は短い裄丈のまま着ていたので手首が見えていましたが、裄を長くしてゆったりよそ行きの雰囲気になりました。
④八掛
柔らかな表地に負担をかけないように、薄く柔らかな化繊が付けられました。 薄紫の色も悉皆屋さんが選んだそうです。
友人が合わせた帯は更紗模様。
紫色の柄が入っているため、着物と良く馴染んでいますね。
5.着心地を聞いてみると…
「暖かい!」
絞りの表地と裏地の間に空気が入る為でしょうか。
木綿の袷は予想以上の暖かさだったようです。
「柔らかい!」
二重のガーゼをふんわり羽織っているような柔らかさを感じたそうです。
このように、諦めていた60年も前の普段着が綺麗に甦りました。
友人に感謝すると同時に、悉皆屋さんの腕の良さと、長年の酷使にも関わらず風合いを保ち続けた南部紫根絞りの丈夫さに驚きました。
40年来の親友と二人、母のきものを着て並ぶと不思議な感覚です。
偶然にも、この日は亡き母の誕生日でした。