9月の単衣の季節になりました。今日は同じ単衣のきものを6月と9月でどのように着たらよいかを考えます。
昨年の着用例からご紹介します。
1.秋草の柄の単衣小紋
①浜ちりめんの小紋
友人の伯母様から小紋のきものを譲り受けました。
端切れには「浜ちりめん」*と表記されています。
*浜ちりめん…滋賀県長浜市を中心に生産される高級絹織物の総称。
滋賀県の地場産業。丹後ちりめんと共にちりめんの2大産地の一つ。(Wikipediaより)
しっかりとした生地で、さらっとした手触り。いかにも単衣のきもの向きです。小菊や桔梗などが意匠化され、秋らしさを感じる柄です。
②6月・絽塩瀬の帯で
秋になるのを待ちきれず、6月上旬に着用しました。(国立劇場にて)
帯は夏物。無地の絽塩瀬です。きものの柄は秋でも、色がグリーン系なのでイメージ的に初夏でも大丈夫では? と思いました。帯のクリーム色が、きものの柄のベージュの部分を明るくしているように感じます。
無地の帯なので、翡翠のペンダントを三分紐に糸で留めて使ってみました。
友人も若草色のきもので、二人並ぶとさわやかな感じに見えます。
このように、秋の文様でも、意匠化されたものなら帯によっては初夏でも着られるように思いました。
③9月・派手になった塩瀬の帯で
9月は基本的には夏帯を合わせていますが、着用したのはお彼岸過ぎだったので夏物に少し違和感を覚え、二部式の塩瀬を合わせてみました。
黒地の塩瀬羽二重の帯です。若い頃の作り帯で姉様人形の刺繍が少し気恥ずかしく、ここ15年は使用していません。
着用にあたっては、
正面を少しずらして姉様を控えめに、
お太鼓のタレにまで刺繍があると派手なので…
隠れる部分をねじって裏返し、
刺繍のない裏側を見せるようにしました。きものクリップで留めて着用します。
実際に着用すると…
派手になっても、黒地の帯は雰囲気が引き締まるようです。
姉様人形は少し控えめになりました。
塩瀬でも作り帯になっていると軽いので、9月でも締めやすく感じました。
④9月・紬の八寸名古屋帯で
9月中旬以降、軽い紬の帯も重宝です。
このように帯揚や帯締を冬物にすると、気温が高い10月半ば頃までこの単衣を着用できると思います。
秋草柄の小紋でも、帯と小物の使い方次第では、5,6月と9,10月の両方着用できそうです。
2.牡丹と菊の単衣小紋
次に取り上げるのは、春と秋どちらの柄も描かれた小紋です。
①6月に
菊と牡丹が描かれているということは、「季節は関係ない」きものということですが、藍と白のコントラストがさわやかなので、今までは6月にばかり着用していました。
前述(1-②)の無地の絽塩瀬を合わせて6月に着用しています。
帆船柄の絽塩瀬の帯で6月に着用しました。(2016.7.24の記事参照)
②9月に
せっかく菊が繊細に描かれているので、秋のきものとして着ることにしました。
櫛織(くしおり)*の袋帯を合わせました。
*櫛織…機織(はたお)りの際、櫛を使って織られたもの。
通常は機(はた)に緯(よこ)糸を通してカマチ筬(おさ)という道具でトントンと押し詰めてきっちり織り目を整えますが、その縦糸を寄せる時にカマチ筬ではなく櫛を使います。そうすることで緩やかで波打つような織り目ができます。透け感があり軽くてしなやか、そして締めやすい帯になります。
白場の多いきものですが、臙脂や茶系の帯を合わせると秋らしい装いになります。
透けていますが夏物ではなく、単衣と袷の季節の帯です。
(2015.10.10の記事参照)
帯揚は絽縮緬。いくら秋といってもまだ暑さは残るので、帯揚と帯締を同じ色にして清涼感を出しました。
3.9月の帯
①9月は夏帯?
今回、9月の単衣には夏帯を使っていませんが、以前は「9月には夏帯!」という感覚が強かったように思います。
昨年96歳で亡くなった染織研究家、随筆家の木村孝さんは
単衣に合わせる帯で迷うことのないように言っておきましょう。六月から九月中は夏衣の単衣仕立てですから、帯はすべて夏帯を取り合わせます。長襦袢・半衿・帯揚などは絽や紗の夏生地です。
と述べています。
(『伝えておきたい嗜みごと 美しい着物、美しい人』木村孝著 淡交社2008年)より
私も若い頃は9月は絽塩瀬や絽綴、博多、と決めていたように思いますが、カジュアルな装いならば帯はもっと自由にしてもよいと考えるようになりました。その日の気温によって、着心地の良い物を着用すればよいのです。
②風合いと色
9月の単衣に合わせる帯は、生地がさらっと軽く、締め心地が楽ならば、夏帯でなくても良いと思います。そして暑苦しく見えない程度の秋らしい色を徐々に取り入れていくと楽しいです。
また9月も下旬になれば、紬などのざっくりした生地で、温かみを感じさせるものも良いと思います。
9月は日々の気温も、また一日の気温も変わりやすく、きものと帯選びには悩みますね。昔からの決まりごとも念頭に置きつつ、悩みを楽しみに変えて、自由な初秋の装いをしましょう!