1.源氏香について
この訪問着には源氏香が描かれています。
源氏香は昔から図案として使われ、私たちも見慣れていますが、一体どういうものなのでしょう。
▲ 「源氏香図帳」 (光村推古書院『香が語る日本文化史・香千載(こうせんざい)』より)
1-1.源氏香とは
組香の一つ。組香とは数種類の香りを聞き分ける(嗅ぎ分ける)遊びのことです。和歌や物語などの主題によって香りを組む、文学と密着した優雅な遊びです。その代表的なものが「源氏香」で、江戸時代に流行したということです。
1-2.遊び方の例
5種類の香木を5包ずつ、計25包を混ぜ合わせ、無作為に選んだ5包を順に焚きます。香席の客は香りを聞いたら紙の上に右から順に縦線を引いていきますが、もし同じ香りだったら縦線の上部どうしを横線で繋ぎます。(つまり、5回焚かれた香が同香か別香かを縦線と横線で表します)
そのようにして5回香りを聞き終わった時にできた図案を、源氏物語の巻名で答えます。
縦線と横線の組み合わせは52通りなので、源氏物語54帖のうち第1巻の「桐壷」と最終巻の「夢浮橋」を除いた52帖の巻名と、それぞれの図案とを対応させているのです。
この「胡蝶」の場合、一炉目、三炉目、四炉目が同香で、ニ炉目と五炉目が同香です。
1-3.きものに描かれた源氏香
紫根絞りによって表された源氏香を見てみます。
この他に「松風」「宿木」「藤袴」の合計12種類の源氏香が描かれていました。きものの柄としては2、3種類の源氏香をくり返して使えば良いと思うのですが、一つの絵画のようにきものをデザインする藤田謙氏は、このように12種もの源氏香を作品に散らしたのでした。
2.着てみる
10月の下旬、初めて袖を通しました。
秋草柄の唐織(からおり)の袋帯を合わせました。
紅葉と秋草という植物どうしの組み合わせは少しくどいのでは…とためらいましたが、きもの同様この袋帯も着用時期が秋限定。訪問着や袋帯は1シーズンに何度も着用するわけではないので、こだわらずに合わせました。
経年変化したと思われる紫根絞りの訪問着。できた当時はもっと鮮やかな紫だったのかもしれません。
アンティーク調きものと、哀愁を感じさせる秋草の帯が思いの外馴染んでいるように感じました。