手入れ

取っていいの? 着物の「しつけ糸」を考える

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きもののしつけ糸(しつけ)に関して、戸惑ったことはありませんか?

本日は、取るべきしつけと取ってはいけないしつけの違い、そして、しつけ糸の取り方と注意点について、考えます。

1.しつけとは何か

①しつけ(躾)の目的

きものを仕立てる際、まっすぐに縫えるように、また布同士がずれないように、本縫いの前に仮に粗く縫っておくことを「しつけを掛ける」といいます。

また、縫い終わった着物の「きせ」*を固定するためや、形が崩れないようにおさえるために粗く縫うこともあり、しつけ縫いは目的によって縫い方を変えます。

*きせ……着るときに縫い目が表から丸見えにならないよう、縫い目に布がかぶるように仕上げる工夫のことです。縫ったあと、縫い代を開かずに縫い目ごと片方に折ります。

②しつけの種類

しつけ縫いには、一目落し、二目落し、三目落し、縫い躾(じつけ・びつけ)、隠し躾、すくい躾などの種類があり、しつけをかける場所や目的によって使い分けます。

古い和裁の本にわかりやすい図解がありましたのでご紹介します。

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△一目落し(平じつけ)

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△二目落し(大小しつけ)

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△三目落し

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△縫い躾

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△隠し躾

③しつけ糸

しつけは用いる糸にも使い分けがあり、絹物には「ぞべ糸」という撚りの甘い絹のしつけ糸を使い、木綿には木綿のしつけ糸を使います。

一般的に新しい着物(やわらかものや紬)に付いているしつけ糸は絹のぞべ糸です。

 

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△絹しつけ糸(ぞべ)

絹しつけ糸は絹手縫い糸と比べると細く弱いものです。

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△絹手縫い糸

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下がしつけ糸です。

 

2.取るべきしつけと取ってはいけないしつけ

①取るべきしつけ

取るべきしつけは、粗くざっくり縫われているしつけ糸です。

一目落としや二目落としで施されています。

袖の周り、身八つ口、裾、褄下(つました…衿先から裾までのこと)などにしつけは掛けられています。

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△袖の一目落としのしつけ

特に袖まわりのしつけは取り忘れると目立つので注意が必要です。

 

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△訪問着の裾に施されたしつけ「松葉飾り」

もったいないですが、これも外します

②取ってはいけないしつけ糸

留袖や振袖など礼装についている細かい縫い目のしつけは「縫いじつけ」、「ぐし」などというもので、取ってはいけないしつけです。

これらはきものの縫い目を抑えて「きせ」を固定させるためと、飾りの目的もあります。

留袖などにひと針ひと針細かく施す縫いじつけ……。

整然と並ぶ白いしつけは美しく、着物の格も高く見えます。

 

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△黒留袖の縫いじつけ

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△色留袖の裾の縫いじつけ

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△掛衿の縫いじつけ

 

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袖口の縫いじつけは取らずにそのままで。

その下のしつけは取とります。(袖口下の横に渡してある糸も外します)

③紳士服や婦人用スーツでも

取るしつけ

洋服でも取り忘れるとちょっと恥ずかしいしつけがありますね。

それはベント(ベンツ)やフラワーホール、ポケットなどのしつけ糸です。

ベントはジャケットの後見頃の中央や両サイドの切れ目のこと。✕のしつけ糸をつけたまま着ている若い人を街で時々見かけます。

胸ポケットや左右のポケットにもしつけが施されていることがあります。

型崩れを防ぐためですが、左右ポケットはものを入れると形が崩れるので、あえてしつけ糸を外さずに着用する人もいるようです。

私はしつけ糸で縫われたままのポケットにものを入れようとして、手が入らずこまった経験があります。

取らないしつけ(ステッチ)

スーツの襟に施された細かいステッチは、着物の縫いじつけと同じで、取らずにそのまま着用します。

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△ジャケットの襟のステッチ(機械縫い)

紳士服のステッチは、現在ではほとんどが機械で行われるようです(不揃いの手縫いに見えても、AMFステッチと呼ばれる機械縫いがほとんどです)。

ただし、一部の高級スーツでは、着物のようにひと針ひと針ステッチを施すこともあります。

 

3.しつけを取るときの注意点

頻繁におろし立ての着物を着る…という人はあまりいないと思います。

しつけを取ることに慣れていない方は、以下の点に注意してほしいと思います。

①どこにしつけが掛かっているかをチェックする

着物の種類や仕立屋さんによってしつけは違いますが、袖や褄下などは必ず左右同じように掛けられているので、取り忘れがないようにしつけの場所を確認します。

②衣裳敷の上で

しつけは新しいきもの、または手入れをしてきれいになったきものに掛かっています。

畳に直ではなく、衣裳敷などを敷いて、その上でゆったり広げて取ることをおすすめします。

③はさみ

しつけ糸は裁縫用の握りばさみ(糸切りばさみ)や、手芸用のミニハサミなどを使って取ります。

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④糸を強く引っ張らない

しつけは各部分が糸を接ぐことなく掛けられています。

けれども、一度に糸を取ろうとして強く引っ張ると着物が傷付くことがあります。

慣れていない人は、ときどきハサミで糸を切りながらゆっくり、すーっと糸を抜くようにします。

⑤玉留め部分

私はしつけの玉結びが分かる時はそこを起点に外していますが、玉結びが隠れている時は無理に探さずに、端の糸を少し浮かせてハサミで切るようにしています。

でも必ずしも端から取る必要はありません。

どこでも良いので長く糸が渡っている部分を軽く浮かせてそこにハサミを入れればよいです。

糸が残らないようにきれいに取れるならどこから外しても大丈夫です。

 

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△松葉飾りの裏の玉留め

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△ 生地を傷めなければどこから外しても良い

⑥前日までに取る

着用当日は慌てて取り残すことがあるので、必ず前日までにしつけを取ります。

そして前日は着物をハンガーに掛けて、しつけ糸が残っていないか、シワがないかなどを確認すると良いと思います。

 

 

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