お母様やお祖母様が使っていた和ダンスの中に、小さなお手入れ布団が入っていませんか?
今日はこのミニクッションを用いて、応急的にカビを取り除く方法をご紹介します。
1.不思議な布団
①タンスの中のマスコット?
私が子供の頃の記憶では、家のタンスの中に12~3cmの四角くてふっくらした黒いものが、いつもちょこんと入っていました。
「何かのマスコット?それとも中に大切なものが入っているのかしら……」と思ってこっそり触ると、軽くて柔らかいだけ。真っ黒で可愛くもありません。
「きれいなものが入っているタンスの中になぜこんなものが?」と不思議に思っていました。
②素材は別珍
その布団の素材は別珍(べっちん)でした。
別珍とは……
別珍とは、ビロード(ベルベット)に似せた毛羽があり肌触りの良い綿織物のことです。本来絹であるビロードを綿で作ったため綿ビロードともいいます。
よこ糸に地糸とパイル糸の2種類の糸を織り込み、パイル糸を切って毛羽を出します。英語でベルベティーンvelveteenといい、これが転化して「べっちん」と呼ばれるようになりました。(参考:『テキスタイル用語辞典』)
一般に別珍というと、毛足が短く光沢がないもので、手触りはベルベットに比べると固い感じです。
以前、冬の色足袋は別珍でできたものが多かったです。
「おばあさんが履いている足袋」のイメージですが、最近は若い女性にも人気のようです。
またコーデュロイも別珍の一種ですが畝(うね)のある生地を言います。
③用途
別珍の小布団で何をするかというと、<着物の手入れ>です。
昔は着物ブラシがなかったので、着物の汚れやホコリを取るのに使っていました。
実家の母だけが使っていたものかと思ったら、義母のタンスにも遺されていたのを発見し、一般的に使われていたことがわかりました。
△大小2種類の小布団(義母の手作り)
(右の布団のサイズ:18cm×15cm、厚さ3cm)
着物の汚れやホコリはタオルや手ぬぐいで払うこともできますが、別珍の生地はホコリをよく吸着させて取ってくれます。
また、中に詰め物をしてクッションにする理由は、おそらく手に持ちやすく、きものに力を加えずに軽く均等に当てることができるためではないかと思います。
2.使い方
①きものを着たあとに
きものや長襦袢の袖口や衿を軽くこすってホコリや汚れを落とします。
きもの全体のホコリを落とす場合、私は着物ブラシを使うので小布団を使用したことはありません。
着物のブラシがけは、きものをハンガーに掛けた状態でおこなうと楽なのですが、私の記憶では母はきものを衣裳敷の上に広げた状態で小布団を使っていました。
着物ブラシはホコリを払って落とすのに対して、小布団は吸着させて落とす感覚だと思います。
②軽いカビ取りに
別珍の小布団が役立つのは次のようなピンチの時です。
「着ようと思った衣類に小さなカビを発見!」
しまい込んでいた喪服やコート、男性のスーツやネクタイなど、ポツッと白いものを発見してしまうこと、ありますよね。
ひどいカビでなければ、小布団で生地を傷めることなくきれいに落とせます。
男物の大島紬です。
裏地に細かいカビが……
部屋の窓を開けて(必要ならばマスクを付けて)から行います。
カビの部分を軽く小布団でこすります。
2~3回こすると取れました。
③あくまでも応急処置
今ご紹介したのは応急処置です。
たとえば、カビが1~2ヶ所だけなら、このあと全体にブラシを掛けてしばらく風通しの良いところに干してから、新しいたとう紙に収納します。
けれども広範囲の場合は、たとえカビが取れたとしても、悉皆(しっかい)屋や呉服屋などの専門店に手入れしてもらうことをおすすめします。
一見きれいでも、見えない部分や繊維の奥まで入ってしまったカビがあるかもしれないからです。
3.あれば助かる(?)小布団
今日ご紹介したお手入れ布団は「絶対に必要!」というわけではありません。
でも、あれば助かるグッズです。
おうち時間を利用して作ってみるのもいいかもしれません。
①着なくなった洋服で
着なくなった別珍の服やズボンはないでしょうか?
12~3cm四方の端布が取れればよいので、綿を詰めて作ってみましょう。
探してみたら我が家にもありました!膝が擦れて履いていない綿の別珍ズボンです。
②布を購入して
端布がない場合は、手芸用別珍の布をインターネットで購入できます。
(綿100%であることを確認してください)
③完成品を購入
着物の季刊誌「七緒」のウェブショップで販売しているようです。