8月も残りあとわずか、浴衣のシーズンもそろそろ終わりです。
みなさんは浴衣の洗濯をどうしていますか? 洗濯機は使えるのでしょうか?
1.浴衣は自分で洗える?
①洗濯できるもの、できないもの
ほとんどの浴衣は自分で洗うことが出来ますが、中には専門店にまかせた方が良いものもあります。
絹紅梅(きぬこうばい)など、絹が使われている浴衣
絹が入ったものは水に通すことが出来ないので、ふつうの絹の着物として扱うほうがよいと思います。
天然染料で染められた浴衣
天然染料は色落ちがはげしいと思います。
絞りの浴衣
絞り部分をつぶしたくない場合は水を通さないほうが良いです。
私の場合、絞りの浴衣のほとんどを手洗いしていますが、特別に大切なものは専門店にお願いしています。
また、新調したばかりの絞りの浴衣を水に漬けてしまうのはもったいない気がするので、2~3年は専門店にお願いし、その後は自分で洗ってみてはいかがでしょうか。
洗うことでだんだん肌触りが柔らかく、着心地が良くなるのが絞り浴衣の魅力です。
有松絞りなどの藍は水洗いによって色が出ますが、鮮やかさはあまり変わらず、シボがまったくなくなるわけでもありません。
絞りが少し平坦になったぶん、生地が伸びるので、太ってしまっても長く着られる良さもあります。
何度も手洗いしてきました。
古いものですが、藍染絞り作家 片野元彦 氏の作品です。
私は浴衣というより、単衣の着物として愛用しています。
片野元彦の藍染め絞りについてはこちらで紹介しています。
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②手洗いと洗濯機の違い
私は浴衣を洗濯機で洗ったことがないのですが、手洗いと洗濯機の違いを考えてみました。
手洗いをしても脱水は洗濯機を使うので、違いは洗いとすすぎです。
手洗いは洗いとすすぎを素早くおこなえる
よほどひどく汚さない限り、浴衣の手洗いは軽く押し洗いをして、すすぎも1回で済ませるので時間はかかりません。
洗濯機は水がたまるまでや、すすぎモードに入るまでなど、浴衣が水に浸かっている時間が長くなると思います。
洗濯機は水量が多いのでよく洗えそう
たっぷりの水で洗う洗濯機のほうが汚れは落ちると考えられます。
洗濯機は水流があるのでシワや型くずれが起こりそう
洗濯機に入れてしまうと中でどうなっているのか確認できません。
水流もあるので思いがけないヨレや型くずれがあるかもしれません。
次に私が行っている手洗いの方法をご紹介します。
2.浴衣を手洗いする
以前にも取り上げましたが、私が普段行っている手洗いの方法に、専門家である悉皆屋(しっかいや)さんからのアドバイスを合わせたものをご紹介します。
①浴衣をたたむ
浴衣は洗う前に「袖だたみ」します。(たたんで洗うことで、シワや傷みを防ぎます)
袖だたみは着物などを簡単にたたむ方法で、外出先でコートをたたむ時などもこの方法です。
袖畳みのやり方
二枚の袖を揃え、脇縫いの線を合わせ、袖を二枚共、衿の方にたおします。
*ここでは下に置いていますが、袖だたみは手に持ったまま行えます。
袖をたおしたところ
裾を上に折り返します。
洗い桶の大きさに合わせてさらに折ります。
②洗い桶に水
必ず水で洗います。
▼ プロからのアドバイス
「ひどい汚れでないときは、水だけで洗っても良いのです。ただし、たっぷりの水で!」
③洗剤を入れる
洗剤はおしゃれ着洗い用の中性洗剤をほんの少し使用します。
▼プロからのアドバイス
「洗剤はキャップで量るのではなく、ちょっとたらす程度で。入れたかどうかわからない程度で十分です。」
④浴衣を入れる
やさしく押し洗いします。
水には浴衣の色が少し出たようです。
⑤すすぐ
水がきれいならすすぎは1回で良いです。
洗剤の量が多くて泡がある場合は、水を替えて、できるだけ素早くすすぎます。
⑥色止め(必要ならば)
▼プロからのアドバイス
仕上げに酢酸を2,3滴入れると色止めになるそうです。
*酢酸…お酢の酸味の主成分。食用、薬品の原料となるもので、食用のお酢より濃度が高い
以前は食用のお酢を入れていました。
「絹の伊達締めや腰紐などを洗う時は、仕上げにお酢を入れると艶よく仕上がり色止めになる」と母が教えてくれました。昔の人の知恵ですね。
⑦脱水
畳んだ状態のまま脱水機に入れ、1分以内で止めます。(軽い脱水なら洗濯ネットは必要ありません)
⑧干す前にたたむ
浴衣がたたまれている状態ならさらに小さく畳んで手でパンパンと叩きます。(叩くと結構シワが伸びます)
⑨干す
きものハンガーにかけて干します。
肩山(肩の線)がずれないように注意します。シワがある場合は、手で引っ張りながらよく伸ばしておきます。
* 写真では撮影のため、障子の前に掛けていますが、実際はなるべく風通しの良い場所を選んでください。
* 外に干す場合は、退色を防ぐため日陰に。
⑩たたむ
シワが気になる場合はアイロンを当てても良いですが、必ず当て布を使用してください。
昔の人の工夫は……
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きちんと畳んで
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和紙や包装紙などにはさみ
座布団をのせ、その上に座って針仕事などをしていました。これが重しとなって翌日にはピンとなり、アイロンは不要です。(私も時々やっているおすすめの方法です)
たとう紙に入れてしまいます。
3.浴衣を洗濯機で洗ってみた
はじめて洗濯機で浴衣を洗いました。
若い頃から着ている一般的なコーマ地の浴衣です。
①浴衣をたたむ
手洗いのときと同じように袖だたみします。
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②洗濯ネットに入れる
たたんだ状態のまま入れられるネットを使います。
③一番やさしいコースで
この洗濯機では一番やさしい洗い方をするドライモードを選びました。
④水で洗う
通常はお湯を使う洗濯機ですが、水で洗います。水量や時間はすべて一番低い設定です。
脱水まで13分でした。
⑤洗濯ネットから取り出す
入れたときとほぼ同じ状態でネットから出てきました。洗濯機でも問題ないかも! と安心しました。(この段階では……)
脱水時間が短いので、いつもの洗濯物より濡れていて重く感じました。
⑥干す
このハンガーが干すのには一番適しています。
三段伸縮式で、袖口まで伸びます。
風通しの良い室内で干します。
(扇風機の風を当てると、早く乾きます)
ハンガー
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4.結果と感想
①衿にシワが!!
実は残念な結果になったことがわかりました。
上前の衿にヨレができてしまったのです。
これは衿を身頃に縫い付けたときの衽(おくみ)の端部分が中でヨレてしまったと考えられます。
浴衣が手縫いだったためにこのような状態になったようです。
着ればほとんどわからないと思いますが、自分では気になります。
掛衿の上から直すことはできないので、部分的にほどいて縫い直さなくてはなりません。
②手縫いの浴衣は手洗いが良い
今回の経験から、浴衣は手洗いが安心だということがわかりました。
洗濯機での「洗濯可」の表示がある浴衣のみ洗濯機を使用するべきだと思いました。
また、どうしても洗濯機で洗う場合は、衿の部分にしつけをかけて(木綿糸またはしつけ糸で粗く縫う)衿がヨレないように押さえることをおすすめします。
③「着たらすぐ洗濯機へ」に慣れてしまっていませんか?
最近の洋服は材質や縫製が工夫され、自宅で洗濯機を使って洗えるものが主流になっている気がします。
質の良いポリエステル素材が増えたので、気軽に洗えて翌日には着用可能という便利さに慣れてしまった人も多いのではないでしょうか。
その感覚で、着物関係もすぐに洗いたくなるかもしれませんが、そういうわけにはいきません。
浴衣も1回着てそれほど汚れていなければ陰干ししたり、ふつうの木綿浴衣なら霧吹きで水をかけておくのも良いと思います。
そしてシーズンの終わりに洗濯すれば良いのです。
木綿だから大丈夫! と着るたびに浴衣を雑に洗ってしまうと、退色して生地が毛羽立ったようになり、あっという間に寝間着のようになってしまいます。
余談ですが、昔は洗濯を繰り返した古い浴衣は柔らかく肌触りが良くなるので、寝間着として活用しました。
そして衿や裾などが擦れて着られなくなったら、解いて布として使います。
昭和時代やそれ以前は、柔らかくなった木綿の浴衣地は布おむつに適していると考えられていました。