アンティーク着物や譲り受けた昔の着物の中には掛け衿の短いものがあります。
それらの着物をどのように着たらよいか考えます。
1.掛け衿
①掛け衿とは?
「共衿(ともえり)」ともいいます。
きものの衿汚れを予防するために衿の上に取り付けられた短い衿のことです。現代の着物ではもとの衿(地衿)と同じ布を掛けます。
同じ布だから「共衿」、地衿に掛けるので「掛け衿」と二通りの言い方をしています。
②掛け衿の長さ
現代の標準の長さは背中心からだと50cm前後で、掛け衿の先が帯揚げの位置にくるものがほとんどですが、戦前の古い着物にはかなり短いものがあります。
例えば……
戦前の縞お召。明治生まれの義祖母のものです。着物自体はしっかりしていますが、掛け衿が短いです。
かなり小柄だったようで、掛け衿はちょうどよい長さに見えます。
私が着ると胸のあたりが少しヘンですね。
つんつるてんの着物を無理に着ている感じがします。
これを着て江戸東京博物館に行きました。(江戸ゾーンで人力車に乗っています)
江戸の雰囲気の中では平気だったのですが、街に出ると掛け衿が短いことで少し気後れがしました。
③昔は掛け衿が短かった理由
考えられる理由は以下の3つです。
- 女性の身長が低く、衿元から帯までの長さが短かった
- 掛け衿は汚れ防止のために付けているので、長い必要がなかった
- 仕立てるときは掛け衿を2枚取るような裁ち方をしていたので、長い掛け衿にはならない
着物は汚れたら洗い張りをし、裾が切れたら短く、裾回しは違う色に変えたり、汚れた部分は見えないところに配置換えして仕立て直すなど、色々な工夫をすることで新品同様に作り変えることができます。
そのときに必要なのは換えの掛け衿だったのでしょう。
2.短い掛け衿の解決策
掛け衿の短い着物をそのまま着ることには何の問題もありませんが、もし気になる場合は次のような方法があります。
①仕立て直し
最善の方法は、専門家に仕立て直してもらうことです。
土台となっている地衿から掛け衿を取って地衿は別布を使う方法や、地衿をつまみ衿にして見せかけの掛け衿を作ったりします。
いずれにしてもいったん衿をほどいてから行うので、素人にはハードルが高い作業です。
ただ、全てをほどいて仕立て直すわけではないので部分直しの費用で済みます。
②そのままで羽織と合わせて着る
羽織を着るとあまり気にならなくなります。(夏物の場合は難しいですが)
羽織や羽織紐付近に視線が行くので、ごまかせる気がします。
③掛衿を外す
注意が必要ですが、掛け衿を外す方法もあります。
最近の着物の掛け衿は長くなって帯の中に隠れるものが多いので、外してしまってもほとんど違和感はありません。
次に夏の着物で掛け衿を外した例をご紹介します。
3.掛衿を外して着てみた
前回の記事で取り上げた祖母のジョーゼットの着物は、掛け衿を外したものでした。
①そのまま着ると
以前そのまま着たときの写真です。
いくら帯留めに視線を集めようとしても、短い掛け衿が気になります。
昭和30年代、同じ着物をきた母の衿元です。
この掛け衿は背中心から39cmしかありませんが、私より身長が高かった母でも衿を詰めて着ているので違和感がありません。
昭和時代の一般の人は半衿をあまり見せず、カジュアルの場合は衣紋も今ほどは抜かなかったので、掛け衿が短くても問題なかったようです。
②外してみる
地衿の上にくけ付けてある掛け衿を外しました。
地衿のみになりました。
幸い地衿はきれいな状態でした。
③着てみた
以前よりも胸の辺りがすっきりしたようです。
近くで見ても掛け衿がないことの不自然さはあまり感じません。
この着物は掛け衿を外すことで自然な着こなしが出来るようになりました。
4.掛け衿を外すときの注意点
- 浴衣の仕立てに多いのですが、掛け衿と本衿が一緒に身頃に縫われている場合があり、外せないことがあります
- 身頃と掛け衿の柄がつながっている訪問着の場合、地衿の柄も同じとは限らないので専門家に相談したほうがよいです
- きものを仕立てるときには地衿と掛け衿の柄を合わせて付けるのが基本ですが、そうでない場合もあるので、外すと雰囲気が変わる可能性があります
- 全体に傷みがあるような着物は地衿がすでに汚れている可能性があるので、内側になる衿から少しずつ外して汚れがないかを確認する必要があります。
すべてに当てはまるわけではありませんが、着物は掛け衿がなくても案外大丈夫なのだということがわかりました。