皆さんは着物を入れるたとう紙の外側に「〇〇色訪問着」などとタイトルを書きますか?
そうすると中身がすぐに分かって便利ですよね。
今日は少し変わったタイトルのきものをご紹介します。
1.額縁模様のきもの
①ぼかしと額縁模様
グレー系のぼかしに茶色で縁取りされたきものです。
衿、袖、褄から裾にかけて縁取りされています。
「額縁模様」とでもいうのでしょうか?
模様といっても柄の付け方のことなので、縁取りされたぼかしの着物というのがよいかもしれません。
茶色に染め分けられた縁には金箔が散らされています。
この金箔によって、地味なのに派手な、変わった雰囲気のきものになっているようです。
②着る人が勝手に付けるタイトル
普通なら、このきものを入れるたとう紙には「グレーぼかし縁取り」などと書くのが適当かと思いますが、以前から「隅田川」と書かれていました。
母が発表会で仕舞「隅田川」を舞うときに着用したためです。
自分なりに隅田川の能をイメージしてこれを着用したのだと思いますが、実際の能の装束や歌舞伎の衣装との共通点はありません。
どんなタイトルをつけようが、きものを整理する本人が分かれば良いのですから、それで充分。種類や色、袷か単衣かなどとは書かずに、こんな風にネーミングするのも楽しみの一つです。
その後きものは私が受け継いで、たとう紙は交換しましたが、私も「隅田川」とだけ書いています。
2.隅田川とは?
①悲劇の能
隅田川は悲劇の能として有名です。
「『隅田川』 (すみだがわ) は能楽作品の一つである。観世元雅作。
一般に狂女物は再会→ハッピーエンドとなる。ところがこの曲は春の物狂いの形をとりながら、一粒種である梅若丸を人買いにさらわれ、京都から武蔵国の隅田川まで流浪し、愛児の死を知った母親の悲嘆を描く。」(ウィキペディア 隅田川 (能) より)
子を失ってさまよう母を扱う能は「狂女物」といいますが、他の作品は狂女の舞に見せ場があり、最後は親子が再会して終わります。(「桜川」「百萬」など)
それに対して隅田川は、亡き息子梅若丸(幽霊)が念仏を唱えながら塚から現れるシーンが辛さのクライマックスで、その悲嘆が見せ場となっています。
△隅田川シテの装束(『演目別にみる能装束』淡交社 より)
②歌舞伎や舞踊でも
歌舞伎にも隅田川を舞台にして「梅若丸殺し」を取り入れた作品がいくつかありますが、大きく脚色されていて「お家再興」のストーリーになっています。(隅田川の原型は残っていないので、まったく別の話として芝居を見ないと、不思議さだけが残ります)
ただ、清元の舞踊「隅田川」は、能の「隅田川」を幻想的に、より美しく仕上げた名作だと思います。
梅若丸の墓へとたどり着いた狂女(班女の前)は、自分の打掛けの小袖を塚に掛け、嘆き悲しみます。
狂女の悲嘆にくれる様子をさらに哀しく彩る清元の叙情的な語りが、私は大好きです。
3.着てみた
①黒地織り帯で
黒地に明るめの織りが入った帯を合わせました。
後ろからは無地の着物の印象です。
帯揚げと帯締めは、衿の金箔に馴染むような色にしました。
②芝居見物に
きものでちょっと冒険したい時、私はお芝居見物の場を選びます。
招待された場所に行くのとは違って立場や格式を考慮しなくて良いので、カジュアルでもよそ行きでも、若い頃の派手な着物でも、自由に楽しめるからです。
ということで、この地味で風変わりなきものを着用して、歌舞伎座3月の公演に行きました。
新型コロナ感染対策により客席は間を空けていますが、2席並びの座席も販売されています。
着物姿の人もだんだん増えてきたように思いました。
第三部は坂東玉三郎の「隅田川」でした。
△三月大歌舞伎「隅田川」(坂東玉三郎)(舞台写真(ブロマイド)より)
△打掛を墓に掛け、花を手向けようとする(舞台写真(ブロマイド)より)
③歌舞伎座アフタヌーンティー
今回の収穫はもう一つ、歌舞伎座3階お食事処「花篭」の軽食でした。
今年から始まった「アフタヌーンティー」というスイーツ好きには嬉しいメニューです。
左の花かごにはプリンやワッフル、あんみつ、きんつばなどの甘いものがたっぷり……。右は二段のお重入りの軽食。
アフタヌーンティーの内容は毎月変わるそうで、季節に合わせた献立とその月の演目にちなんだお菓子が工夫されています。
塩昆布とナッツも。甘い物との気が利いた取り合わせで感心しました。
久しぶりに食べた言問最中(ことといもなか)です。
言問団子で有名な江戸末期創業のお店の最中。在原業平の和歌に登場する都鳥をモチーフにしています。
演目の「隅田川」にちなんだお菓子でした。
3階お食事処「花篭」は歌舞伎を見ない人でも利用できます。↓
紹介動画↓