今日は帯締めの結び方を取り上げます。
どちらでも良いことで、一見違いもわからないのですが、知るとスッキリするかもしれません。
1.平組の帯締め
今回取り上げるのは、平組(ひらぐみ)の帯締めの結び方です。
①きっかけ
平組は平打ちともいい、平らになるよう組まれた帯締めのことです。
カジュアルからよそ行きまで種類も多く、最も使用頻度の高い帯締めです。
けれどもスッキリきれいに結ぶのは結構難しく、私も母のやり方を真似して長年適当に結んでいました。
以前の私はこんな感じで結んでいました。
ところがある日、一緒に出かけた着物友達が帯締めをキリッと格好良く結んでいるのに気付き、「何が違うのだろう?」と不思議に思いました。
友達といっても母親と同じ昭和ひとけた生まれの方で、着物の大先輩。残念ながらもう故人です。
外出はいつも和服だった彼女とは、一緒に芝居や美術館に出かけて着物話に花を咲かせたものです。
全体はゆったり着付けているのに最後の帯締めでぴしっと決まっている感じがします。
②どこが違う?
違いは結び目から出る帯締めの向きでした。
a)上から下へ
私がそれまでやっていた結び方です。
(写真に向かって)結び目から左右に出る帯締めが、上から下に向かっています。
b)下から上へ
友人に教わった結び方です。
結び目から 左右に出る帯締めが、下から上に向かっています。
拡大して比べると……
一見同じような仕上がりですが、bの紐の流れのほうが自然に思えます。
③羽織紐と帯締めは結び方が違う?
彼女の説では、私の以前の帯締めの結び方は羽織紐の結び方で、帯締めと羽織紐の結び方は違うとのことでした。
羽織紐は結んだ紐が下に向きます。
それに対して帯締めは、紅白の水引(みずひき)のような向きにすると形がきれいなのだそうです。
この水引のような結び方は、結婚式などのおめでたい席に出る時にぴったりで、「寿結び」とか「熨斗(のし)結び」と言われるそうです。
彼女はよそ行きでも普段着でも、いつもこの結び方をしていました。
私も真似をして「のし結び」をするようになりました。結んだときに気持ちが引き締まる感じがしたからです。
同じ冠組(かんむりぐみ・ゆるぎぐみ)の帯締めと羽織紐を使用しています。
こうして見ると紐の向きの違いがわかります。
私はこのような木綿のカジュアル着物でも「のし結び」です。
私は結んだあとの帯締めを一本に重ねずに幅広く見せることが多いのですが、その場合に上向きが強調されるようです。
2.一般的にはどちら?
一般的にはどちらの結び方が多いのでしょうか。写真や本を調べてみました。
①昔の人
△女優・田中絹代(1909-1977)(昭和3年頃)(出典:別冊太陽『女優』昭和59年 平凡社より)
下向きの結び方です。
上向きの「のし結び」です。
下向きですが、短い丸ぐけ帯締めの端を下から上に立てるようにはさんでいます。
母はずっと下向きに締めていました。
着物に関する造詣が深い随筆家、白洲正子氏(1910 – 1998)も戦前から下向きのようです。
↓
△若き日の白洲正子氏
△若き日の白洲正子氏 (いずれも『衣匠美』白洲正子著 世界文化出版 2000年より)
②きもの雑誌や着付け本
私が持っているきもの雑誌や着付けの本はほとんどが下向きでした。
のし結びは『美しいキモノ』2015年秋号で2例見つけました。
このように、昭和時代から帯締めの多くは下向きの結び方だったようです。
また、古い写真を見る限り、それ以前は短い紐をちょこんと結んでいたり端の方で結んだりと、あまり紐の結び方にはこだわりがなかったようです。(昭和以前は写真が不鮮明なこともありますが)
上向きの結び方(のし結び)は少数派で、戦後の「礼装の着付け」文化から生まれてきたものなのかもしれません。
3.どちらも正しい
①結婚式で
先日結婚式に参列した際、黒留袖を着た親戚が「のし結び」で帯締めを結んでいました。
この二人は同じ美容室で着付けをしてもらったようです。
いつものように私も「のし結び」にしました。
②どちらでも良い
はじめに書いたように、今日の話題はきものを着るときにあまり気にしなくてもよいことです。
今まで通り、自分が覚えた結び方や気に入った結び方をしていれば充分なのですから。
でも、「おめでたい席に出るときだけやってみよう!」と興味を持たれた方は試してみてください。
熨斗のように結んだ帯締めで気分が上がるかもしれません。
次回はこの「のし結び」のやり方を写真解説したいと思います。